2012年3月23日(金) 18:20開場 19:00開演 @東京文化会館 

東京都交響楽団 第730回 定期演奏会Aシリーズ

チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲
---休憩---
ショスタコーヴィチ:交響曲第4番

チェロ:宮田大
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉
指揮:エリアフ・インバル

徹頭徹尾、このコンビにしか出来ない「第4番」でした。

ゲルギエフの解釈を筆頭として、この曲には「戦争」の重く暗いイメージが先行します。粛清を恐れた作曲家がお蔵入りにしたというエピソードから想起される印象だと思いますが、私はそのアプローチ一本で通す演奏は、正直敬遠します。
いつの時代の作曲家でも、自らの「野心作」には大抵力が籠るものです。「すごいものを書こう」として、多くの要素を詰め込むのでしょうか、その後創作活動を続けるうちに、作品の書体が簡潔に洗練されていくのだと思います(ベートーヴェンの「エロイカ」→「第5」然り、ブラームス「第1」→「第2」然り)。私は、ショスタコーヴィチもこの例の範疇に収まると思います。

さて、インバルの今回の演奏からは先述したような気負いようなものは感じられず、あくまで生まれる音楽に全てを語らせたアプローチ。しかし、そこは名艦長インバルのこと、絶大なメリハリ効果をもって、極めて雄弁な演奏を繰り広げました。冒頭、グロッケンシュピールと管楽器の叫びから会場の雰囲気をピリッと硬直させ、一気に戦慄の音世界へと連れ込んで離さないあたり、流石の手腕だと思います。ただ、昨冬聴いた12番ほど曲の流れがスムースではないためか、強力に都響をリードしていくという雰囲気は希薄だったと思います。むしろ、この曲の内包する様々な要素を丹念に描きだし、支離滅裂なまま提示したといえるでしょう(・・・とは言いながらも、やはりインバルの求心力は絶大で、「ああ、凄い『交響曲』を聴いた」と聴衆に思わせるのが、彼の匙加減の絶妙さなのですよね)。ちなみに基本テンポは速めでした。

そして何と言っても、この難曲・大曲を見事に奏し切った都響には最大限の賛辞を送りたいと思います。この「第4」の異常な世界観を体現するかのような、異常な集中力―いや、狂気と呼ぶべきでしょうか―で全曲を構築するそのスタミナには、ただただ感服するばかりであります。
第1楽章の有名なプレストは、まさに「一糸乱れぬ」アンサンブルで完璧の出来。会場が一瞬にして凍りつきました。さらに、その後インバルの微妙なアッチェレランドにも応えるのだからまさに神がかり的。プロの底力は計り知れません。
また、各楽器が裸になる箇所も、ニュアンス付け、リズム感、あらゆる点でこれまた完璧なファゴットの岡本氏をはじめ、トロンボーン、コールアングレ、哀しくも美しい矢部コンマスのソロ、その他各々が安定した技巧を披露。また、全曲通して最高音を鋭く飾った小池氏のピッコロにも触れないわけにはいきません。
そのダイナミック・レンジも広大で、クラスター音響で会場に爆裂の渦を発生させる一方、第3楽章結尾では静謐な再弱音を持続させました。
また、明らかに不安を湛えた終結にも関わらず、彼らの演奏には不思議な統一感や安心感が漂っていたのも不思議なところ。近年のインバルの円熟のなせる技でしょうか。

さらに、今回の演奏会をより素晴らしいものにしたのが当夜の聴衆。恐らく、演奏機会の希少な「第4」を、交響曲全集も残すインバルの指揮で聴こうと、全国のショスタコ・フリーク(ヲタク?)が上野に終結したのでしょう、会場は驚異的な静けさ。演奏後の沈黙と熱狂も、ちょっと常軌を逸したものを感じました。インバルも聴衆を褒め称えるジェスチャーをしていましたし、いつもこのような相乗効果が生まれてほしいものですね。

・・・「第4」の印象に押されて、前プロのロココ変奏曲について何も書いていませんでしたね。
この演奏、これまでインバル指揮で聴いてきた協奏曲の中では屈指の出来栄えだったと思います。インバルという人は、ご存知の通りオーケストラ作品を掌握することには抜群の腕前を発揮するのですが、どうも「協奏」となると分が悪いような気がしてなりません。ステージで起こる事象を全て自分でコントロール出来ないと気が済まない人なのでしょう(彼の師匠、チェリビダッケも同じ理由でオペラ指揮を敬遠しましたね)。しかし、今回の演奏は、若手実力派の宮田氏とインバルの呼吸が非常に上手くいっているように感じられました。宮田氏は、文化会館の残響の少ないアコースティックをものともせず、豊かな音量を会場に響かせましたし、非常にしなやかな音楽性を持っており、とても好感が持てました。改訂版の華やかな終曲は、インバル主導でリズミックに躍動したような感もありますが(笑)。
とにかく、彼の指揮する協奏曲演奏で心から良いと思ったのは、神尾真由子とのチャイコフスキー以来です。4月はモーツァルトとショパンのピアノ協奏曲・・・どう出るでしょうか。


最後に、このコンビもいよいよ新たな段階に入ったようです。
恐らくインバルのオーケストラへの要求は、以前より困難になっていると思いますし、曲目もオーケストラの限界能力を引き出すような作品が増えてきました。
しかし、都響は全員野球でインバルの音楽を体現します。まさに、彼の『楽器』となっています。
さらに聴衆の反応も、先週のドヴォルジャークに引き続き熱狂的で、またもやソロ・カーテンコールがインバルに贈られました。なんだか晩年の朝比奈隆のように、恒常化しそうな気配がします。現在のこの状態がベースとなり、インバルの登壇回数は更に増えていくのですから、これからが楽しみです。個人的には、ショスタコをツィクルス化してほしいと思いますが。きっとより練られた演奏が聴けると思います。その他にも、メシアンやらシェーンベルク・シリーズやら。。。

などなど、未来への期待が大きく膨らんだ一夜でした。いや、本当に楽しみだなぁ。