2012年11月3日(土) 13:20開場 14:00開演 @東京芸術劇場 コンサートホール

「作曲家の肖像」シリーズVol.90《マーラー》

マーラー:歌曲集「少年の不思議な角笛」より
 死んだ鼓手
 むだな骨折り
 番兵の夜の歌
 この歌を作ったのは誰?
 高き知性をたたえて
 塔の中の囚人の歌
---休憩---
マーラー:交響曲第4番

バリトン:河野克典
ソプラノ:森麻季
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉
指揮:エリアフ・インバル


マーラーの4番は難しい作品。
以前からぼんやりとした認識はありましたが、今回改めてその思いを強くしました。
室内楽的な要素を大編成で再現することが
弾き手には求められ、聴き手は多様な思いに頭を悩ませることとなります(笑)


まず前半の「少年の不思議な角笛」抜粋。
開演前に歌詞を読みましたが、いやもう俗っぽいなどという言葉では済まされませんね。
戦場の血肉の生臭さに銃弾の焦げるような臭い、またレントラー風の曲からも高貴さは微塵も感じられません。シューベルトらの歌曲に慣れた当時の聴衆はさぞ憤慨したのではないでしょうか。

独唱の河野氏はマーラー歌曲の解釈に定評があり、N響との共演でCDも出しています。
今回、ドイツ語が明晰に聴き取れ、優れた歌唱ではあったと思うのですが、いかんせんホールが広く、やや損をしたかなという感があります。また楽譜を見ながら歌われていたので、あまり声が飛んでこなかったということもあるでしょう。
対するオケは伴奏というレヴェルを遥かに超えて素晴らしい。インバルは河野氏に敏感に反応しながらオケをコントロールしながらも、マーラー特有のアイロニカルな表情を巧みに浮き上がらせます。決して煽らず、緻密な演奏ながらも強い説得力がありました。西川氏のスネアもキレキレ。

休憩をはさんでの4番です。

結論からになりますが、演奏会を聴き終えて初めて、このプログラミングの妙に唸らせられました。「角笛」の関連は勿論なのですが、それ以上にこの2曲を続けて聴くことに意義があったと思うのです。
4番は一聴すると大変美しい曲なのですが、随所に地獄がぽっかりと口を開いているような不気味さが潜んでいるということが知られています。この作品の前に「角笛」のグロテスクを味わっておくことで、4番の悪魔的要素が際立つだけでなく、この世のものとは思えぬ美しい箇所ですら、天使に扮した悪魔の囁きではないかという一つの疑念が浮き上がります。
こうなってしまうと、もはやただの美演として聴くことはできませんでした。都響が繊細に音を紡げば紡ぐほど、直感的な感動と身震いするような恐怖が同時に体に押し寄せるのです。
実に貴重な経験でありました。そしてこれこそが、インバルが指摘するところの、「泣きながら笑うしかない」表情を持つマーラーの素顔ではないでしょうか。

勿論このような勝手な聴き方を許容してくれたのも彼らの演奏が本当に素晴らしかったからです。前回の3番でも圧倒的な完成度を誇っていましたが、今回またレヴェルが上がってしまったといっていいと思います。聴衆の期待が必然的に高まる中、軽々とその期待を超えた演奏を披露するインバル/都響、まさに空前のコンビです。

また、久々のカムバックで存分に美音を聴かせたオーボエの本間氏(ウィンナ・オーボエを思わせるしっとりとした音色!)をはじめ、各ソロは当たり前のように高水準。コンマス矢部氏のスコルダトゥーラも見事でしたし、フルートも聴衆を異世界へ誘いました。
何より見事なのが弦楽セクション!圧倒的な繊細さを誇る都響の弦の真骨頂でした。インバルの変幻自在なテンポ変化への一糸乱れぬ対応に、甘いポルタメント・・・何度鳥肌が立ったか分かりません。1楽章コーダ開始のピアニッシモ、3楽章冒頭のチェロには涙が滲みました。
終楽章のソプラノも、09年の録音で聴く半田氏よりも雰囲気のある歌唱。弦と調和した音程のずり下げなど、実演で聴くと本当にとろけそうになります。また美しい黒のドレスはこの曲の多面性の暗示?考えすぎでしょうか。

終楽章、悠久の流れを思わせるイングリッシュホルンとハープが消え行った後の深い余韻が今も体の中に響いています。今日は大変聴衆の意識も高く、理想的な拍手の始まり方でした。まるで余韻が消えるのを惜しむようにパラパラと、そして盛んな喝采へ。今日はソロ・カーテンコールはなし。


さて、ひとまずこの4番で区切りとなる長期・インバル月間。1月に再び大曲・5番で新マーラー・ツィクルス第Ⅰ期の最後を飾ります。高みへ上り続けるインバル/都響、また出会えるのを心待ちにしています。(あっ、その前にはフルシャもありました。。。)