2012年12月11日(火) 18時00分開場 18時45分開演 @愛知県芸術劇場コンサートホール

第30回名古屋クラシックフェスティバル
トゥガン・ソヒエフ指揮トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団

ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」
ラヴェル:ボレロ

---休憩(20分)---

ベルリオーズ:幻想交響曲

~アンコール~
ビゼー:歌劇「カルメン」より 第3幕への前奏曲、第1幕への前奏曲

管弦楽:トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団
指揮:トゥガン・ソヒエフ


「トゥールーズ・キャピトル」と言えば、まず頭に浮かぶのがミシェル・プラッソンとの組み合わせでしょう。
彼らがEMIにのこした膨大なフランス音楽のカタログのうち、恥ずかしながら私は数枚しか耳にしていませんが、今回プログラムに組まれた「幻想」での、宝石を散りばめたかのような色彩感に満ちた演奏は魅力的でした。

そのプラッソンは近年シェフの地位を辞し(現在は名誉指揮者)、その後釜を継いだのがトゥガン・ソヒエフです。
弱冠30代にして既にベルリン、ウィーン、コンセルトヘボウの世界三大オケへの客演を経験し、
今シーズンよりベルリン・ドイツ響の音楽監督も兼務するという、破竹の勢いを持った若手指揮者ですので、今回のトゥールーズ・キャピトルとの公演は大変楽しみにしていました。

まずは「ローマの謝肉祭」。
最初のヴァイオリンから、いきなり生彩に満ちた響きが聴かれます。この音で「今日は当たりだな!」と確信しました。続く管楽器の応答、そしてコーラングレによるイタリア風の旋律と、実に生き生きと進みます。(コーラングレの女性奏者、全プロ通して実に見事でした)
オーケストラ公演において、序曲が小手調べということは結構ありがちですが、そんなことを微塵も感じさせない、覇気に満ちた演奏に会場は沸きました。

これに続くのが今回のツアー中、名古屋でしか聴けない貴重な「ボレロ」。
「ボレロ」目当てにわざわざ各地から駆けつけたファンもいたようです。(名古屋の割に客席のマナーが比較的良かったのはこのためでしょうか?) 
そして、この「ボレロ」が超弩級の名演で、今回に匹敵する演奏には滅多に出会えないでしょう。数年前に聴いたN響の演奏が霞みました。
16分程度のゆったりとしたテンポで入念に各ソロを扱い、全く煽らずとも豪壮な音響を作り出すソヒエフの楽曲構築の巧さといったら!楽器間のバランスも完璧にコントロールされ、コーダに来てようやく「ここぞ」とばかり開放される打楽器のずしんと腹に響く音色も生ならではの体感でした。

なおオーケストラの配置は、
前半のみホルンが上手で、「ボレロ」では、チェレスタとシンバルを一人の奏者が兼務。
ハープは前後半ともに下手に配置されていました。


前半でもうお腹一杯の感がありましたが、休憩後は大作「幻想」。

結論から言うと、やはり素晴らしい演奏でした。表現の斬新さは「ボレロ」に譲るでしょうが、
この曲でもソヒエフの個性は確かに刻まれていたと思います。

全体的にはオーソドックスな解釈でしたが、やはり若干遅めのテンポを取り、また効果的なパウゼも随所に交えた、噛んで含めるような独特の歌い方。
ロシア臭、というほどではないにせよ、このような丁寧さ――特に繊細を極める弦楽への指示には――師テミルカーノフの影響を思わせるものがあります。これは彼の大きな長所であり、第1楽章序奏部、第3楽章などでは最大級の効果を発揮していました。是非大事にして欲しいと思います。

また、楽曲構築の見事さについては「ボレロ」で先述しましたが、「幻想」でも改めて実感しました。彼の構築力は最早老練とすら言え、30代とはにわかに信じがたいものです。
緻密な設計に加え、曲の頂点への持って行き方も実に心憎く、息の長いクレシェンドを経て訪れる圧倒的なクライマックスは、「ソヒエフ・マジック」とでも呼びたくなるほど。

ソヒエフ、ロシア物ではより大胆な解釈を打ち出すこともあるようですが、今回のフランス・プロでは、曲の隅々まで完璧に描きつくす!という姿勢を貫いたようで、その結果として「幻想」では、重厚なスケール感のなかで、曲の素朴な美、妖艶な表情、狂気に満ちた乱舞など、ありとあらゆる要素が余すところ無く展開されました。
聴衆の多くが慣れ親しんだこの名曲からこれほどの新鮮さを引き出すソヒエフ、恐ろしいばかりの才能といえます。

オーケストラも、前半を含め最高級のパフォーマンス。フランストップ3というのは、冗談抜きで過小評価に聞こえます。ネームバリューに欠けるからか、会場が8割程度の入りなのが本当に勿体ないです。
まずは弦楽セクション。私はこれまで、フランスの弦は軽い、薄いというイメージを何となく持っていました。そして今回トゥールーズ・キャピトルを実際聴いてみると、確かにドイツやロシアのオケに比べて響きはそれほど深くありませんでしたが、ソヒエフがかなりテヌート気味に弾かせる趣向ですので、各セクションには十分に厚みがあり、トゥッティでは管楽器に負けない存在感を示していたように思います。
また木管は各人抜群の技量。それに加え、豊かな表情付けからはソリスティックな主張を感じ取りました。これが所謂フランス流でしょうか?なおファゴットではなくバソンを吹いていました。
金管も木管同様巧く、またトゥッティでは凄まじいマスの響きでホールを揺るがせ、鳥肌が立ちました。音色も十分に美しく、言うこと無し。「幻想」の後半楽章での大活躍は言わずもがな。
ティンパニは派手なアクションは皆無ですが、芯のある音で全体を引き締めました。その他の打楽器も皆好演。

全体的に、ソヒエフとの共同作業を本当に楽しみながら演奏している感じがあり、その親密な空気が客席にいる自分にも伝わってきたのか、気がついたら自分も笑顔になっていました。
先述したような緻密な歌い方をソヒエフが躊躇無く実践できるのも、オーケストラとの信頼関係の賜物でしょう。アンコールの「カルメン」第3幕への前奏曲では、ソヒエフは終始笑顔を浮かべつつ、ほんの僅かな手の動きでテンポを自在に操っていました。就任から4年にして、早くも両者が蜜月状態にあることは誰の目から見ても明らかです!

なお、第3楽章オーボエは下手舞台袖。第5楽章の鐘は上手舞台袖。
さらに余談ですが、カーテンコールには独特の流儀があるのか、立たせ方に優雅さを感じました。


いやはや、本当に、本当に凄いものを聴かせてもらいました。予想外の特大場外ホームラン。
このコンビ、今後も目が離せない組み合わせであることは言うまでもありません。
そしてトゥガン・ソヒエフ、いずれ巨匠として名を馳せる事となるでしょう。