2015/4/12
東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2015
-東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.2
ベルリオーズ 《レクイエム》~都響新時代へ、大野和士のベルリオーズ
@東京文化会館

ベルリオーズ:レクイエム

テノール: ロバート・ディーン・スミス
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:レナート・バルサドンナ
合唱指導:宮松重紀
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉
指揮:大野和士

貴重な曲の実演に接することができた、というイヴェント的価値以上の意義があった素晴らしい演奏会であった。

巨大な編成ゆえに滅多に実演ではお目にかからないベルリオーズの破天荒超大作「レクイエム」。都響は2005年に高関さんの指揮で演奏しているほか、インバルが1991年の初共演で(!)取り上げている。マーラー8番を優に超えるその規模はまさに異形というべきで、この作品を大野和士/都響が演奏するとなれば聴き逃せない。同日には魅力的な公演が集中しており、またチケット入手にも苦労したが何とか会場に足を運ぶことができた。

会場に入りまず確認したのは楽器配置。ステージ上には17台のティンパニがずらりと鎮座し壮観だ。左端の久一さんだけ3台、他は2台ずつで計8人の奏者が演奏する。バンダは計4箇所で、R・L客席の2階と3階に配された。さらに150人の大合唱の上部にオーケストラの金管(Tp・Trb・Tub)が構える。ホルンはオリジナルの12本よりは少ないが、それでも8本の大所帯で舞台下手側に。オーケストラは16型4管編成だった。なおテノール独唱は途中で入場して、金管奏者と入れ替わりで合唱の上部に着席。

大野さん/都響のコンビは就任披露を2度聴いて、正直なかなか課題を抱えての滑り出しだと感じたのだが、今回は非常に印象が良かった。たぶん、4月に行われた3回の都響との共演の中で最もオーケストラとの呼吸がうまくいっていたのは今回だと思う。
やはり声が入るとオペラ指揮者としての天賦の才が爆発するのだろうか?大野さんはバンダ・声楽・管弦楽を完璧に掌握し、この大作を何の気負いもなく指揮していた。冒頭の一音から音の密度が先日のマーラー7番とは大違い。マーラー7番と異なり、オーケストラにとって殆ど弾く機会が少ない曲であるがゆえ大野さんの指示に忠実だった、とも考えられるかもしれない(もっとも、マーラー7番だって演奏機会が多いとは言えないけれど!)。
Dies Iraeでの波状攻撃のような管弦楽と合唱の応酬も緊迫感に満ち、バンダの登場に向けてテンポを自然に揺り動かしながら解放へと向かわせる手腕は、まぎれもなくオペラを知っている指揮者のそれ。そして会場4群のバンダと8人のティンパニが壮烈に鳴り響くTuba mirumではあたかも大聖堂のような圧倒的音響空間が広がり、しかも文化会館ならではの分離の良さも維持されていた。各バンダは存分に鳴らしているのに、決してカオスにならない点に指揮者の厳格なコントロールを感じさせる。この箇所とLacrimosaでは大野さんは完全に客席側を向いて大きくタクトを振り、瞬時にステージに振り返って合唱へキューを出すなど大忙し。彼はすでにこの大作を指揮した経験があるそうだが、その経験が滲み出るような的確なリードだった。
また、全曲の大部分を占める静謐な祈りでは大編成オペラシンガーズの高水準な合唱がものを言った。小編成アンサンブル・無伴奏・大編成と形態を変えて見事な合唱を聴かせた彼らはこの公演のタイトル通り主役であったように思う。過酷な高音(しかも最強音!)が連続するテノール系のピッチが若干ぶら下がり気味だったのは惜しかったが、Agnus Deiにおける厚みある弱音などは流石に素晴らしく、バルサドンナの薫陶もあってヨーロッパの合唱団体に劣らぬ風格を発揮していた。Sanctusでこれまた難度の高いソロを務めたR・D・スミスは、ノンストップでヴァルキューレ2回→リサイタル→レクイエムを歌ったこともありやや余裕のなさを感じさせたが、それでも舞台の最後方からとは思えぬ豊かな声量で演奏に華を添えた。
都響は先述したように弦の密度が非常に高く聴き応えがあり、合唱の伴奏として申し分ないクオリティを発揮していた。矢部さんの協力的なリーダーシップが全体を引き締めたことは言うまでもない。

今年の東京・春・音楽祭のフィナーレ公演において、文化会館を本拠とする都響がその実力を謙虚に発揮した素晴らしい演奏会だった。