2015/4/25
紀尾井シンフォニエッタ東京 第99回定期演奏会
@紀尾井ホール

モーツァルト:2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネ
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第4番
シューベルト:交響曲第8番「グレイト」

ヴァイオリン:アナ・チュマチェンコ、玉井菜採
管弦楽:紀尾井シンフォニエッタ東京
コンサートマスター:玉井菜採
指揮:サッシャ・ゲッツェル

今年の初めに首席客演指揮者を務める神奈川フィルと素晴らしいウィーン・プログラムを聴かせてくれたゲッツェルが紀尾井シンフォニエッタ東京に登場。やはりウィーンの2大作曲家で対比の妙を魅せた。

チュマチェンコ女史をフィーチャーした前半、コンチェルトーネでは玉井さん(彼女はコンマスをも務めた)との共演で、リラックスした雰囲気の中演奏されたが、如何に奏者を違えるといえども同じVnを2艇というのは音色の同一性から考えてあまり聴き易いとは言えない。美しい演奏ではあったが、あまり印象に残らない曲だった。独奏者がオケ・パートも殆ど弾いていたのも原因かも。
続くVn協奏曲第4番は冒頭からオケのコシのある響きが好ましく、小編成だが芯のある伴奏でずっしりとした聴きごたえを残した。チュマチェンコ女史のソロはまた絶品で、入りで若干ピッチの怪しさがあったがオケと対話するうちにみるみる雄弁さを増した。艶消しのような渋い味わいの音色は実に魅力的で、カデンツァの巧みな歌い回しでは会場全体がウットリと聴き惚れているのが分かった。円熟の至芸というべき素晴らしいモーツァルトであった。Vn奏者出身のゲッツェルの細やかなサポートも申し分なし。

後半シューベルト「グレイト」は対比の妙ここに極まれり、と快哉を叫びたくなるような、ある種の衝撃を持った稀有な超名演。KSTという名人集団と天賦の才を持つ指揮者ががっぷり四つに組めば、これほどの音の厚み・情報量・そして洒落た愉悦を併せ持つ演奏を成し遂げられるのかと呆気にとられている。もしかすると生涯忘れ得ぬレヴェルの名演であったかもしれない。
各楽章でゲッツェルが施した工夫について一つずつ言及はしないが、今回最高の効果をもたらしていたのは、1楽章のTrbによるAs-mollコラールで、霞がかかったように始め、やがてみるみる視界が開けるように快活さを増していった。Trbセクションだけを抑えさせるのではなく、管弦楽全体をぐっと抑制してから解放したのだ。室内オケ、それも優秀なKSTならではの細工であろう。なお転調して再びTrbにコラールが回帰する箇所では、Vaと1stVnの掛け合いを効果的に聴かせるなど一筋縄ではいかなかった。
また、第3楽章トリオの木管による喜びが溢れ出るような豊かな響きも素晴らしかったし、終楽章も名人芸大会にならず骨太なサウンドで締め括った。ゲッツェルは特段「ウィーン風の」サウンドは求めていないようだったが、手締めティンパニの使用、トゥッティでも刺激的に鳴らさず金管を含めふわりとした音響の中に収める音作り、そして何よりこの大作を暗譜で指揮したことが、彼の意気込みを物語っていたことは間違いない。

終演後は紀尾井ホールでは珍しい熱狂的な喝采、そしてそれは奏者からも巻き起こった。初共演にして、ゲッツェルはツワモノ揃いのこのオケの心を掌握した。それほどまでに、極めて高次元の音の交歓が詰まった「グレイト」だったのである。