2015/7/20
東京都交響楽団 都響スペシャル「名曲の夏」
@サントリーホール

J. シュトラウス2世:喜歌劇「こうもり」序曲
マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
ヴォルフ=フェラーリ:歌劇「マドンナの宝石」間奏曲第1番
サン=サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」より バッカナール

ヴァーグナー:歌劇「ローエングリン」より 第3幕への前奏曲
リスト:ハンガリー狂詩曲第2番
ムソルグスキー:歌劇「ホヴァンシチナ」より 前奏曲(モスクワ川の夜明け)
チャイコフスキー:祝典序曲「1812年」
~アンコール~
ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰」より ラコッツィ行進曲(ハンガリー行進曲)

管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:四方恭子
指揮:小泉和裕

小泉和裕×都響の送るオーケストラ名曲選の2日目。初日はチャイコフスキー「弦楽セレナード」という中規模作品が入ったが、今回は真に小品セレクションといった趣で、オペラ中の名作が多い。小泉さんも軽く答礼した後すぐ次の曲に入っていた。

冒頭はニューイヤーでもお馴染み「こうもり」序曲で華やかに。自分は近年のニューイヤーでは最高の出来と評される、2010年プレートル指揮による同曲の演奏を愛している。ウィーン流の溢れるような茶目っ気は、小泉さん×都響という硬派な組み合わせには望めないが、それでもキリリと引き締まりつつ豊麗なサウンドは冒頭から快調だ。アンサンブルや両者の息の合い方は前日より更に良好、その中に込められるフレージングの工夫が嬉しい。

続いては弦楽合奏と木管のみの演奏で「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲。凄絶な次のシーンへの受け渡しとして書かれた名作中の名作であるが、ここでの都響弦セクションのユニゾンはまさに絶美だった。艶やかで量感も十分、上行音型でのオケが一体となった絶妙なうねりと、これ以上何を求めるというのか。少々早い歓声は残念だったが、魅力的な演奏だったことに変わりはない。

続いてのヴォルフ=フェラーリとサン=サーンスは静動の対象を成しており、なかなか生演奏では聴く機会のない佳曲の魅力を再認識した思いだ。
ヴォルフ=フェラーリで弦の流麗な旋律を楽しんだ後は、異国情緒に富むバッカナールがやってくる。後者では金管打楽器の粗野な強奏も加わり、豪快なリズムの魅力が全開となる。

前半最後のバッカナールで予告されたかのように、後半では金管楽器のパワフルさが強調される名作が並ぶ。
「ローエングリン」の勇壮な前奏曲ではトロンボーンセクションが波状的に全体を鼓舞し、都響らしくソリッドな響きながら底力あるヴァーグナーを轟かせた。

都響の妥協ない演奏は外面にも現れ、ヴィオラトップの鈴木さんの弦が切れるハプニングが。ハンガリー狂詩曲第2番の前には楽器リレーとなった。音楽鑑賞教室で興味を持ってコンサートに初めて来た子供達がいたら、珍しいシーンを目撃することになったかもしれない。
ハプニングが落ち着いた後のリストは、作曲者とドップラーの編曲でなくカラヤンなども用いたミュラー=ベルクハウスによるもので、ハ短調に移調されている。冒頭から濃厚な民族色を聴かせる弦に力が入る。後半のド派手なお祭り騒ぎでは小泉さんの指揮にオケがピッタリ付け、絶妙のアンサンブルを見せ付ける。どんなに演奏が加熱しても下品にならないのは彼らの持ち味だろうか。圧倒的な演奏だった!

最後に置かれた堂々たる序曲「1812年」の前に箸休めのように響くのはムソルグスキー「モスクワ川の夜明け」。冒頭のヴィオラの響きに深みがあり、続く木管群との対話も雰囲気豊かに聴かせる。
そして繰り出される「1812年」、ムソルグスキーに続きやはり中低音域の弦があまりに美しい。小泉さんの指揮にもかなり力が入るが、力みが合奏の軋みにならずあくまで濃厚な響きとして客席に伝わり、曲に引き込まれる。ロシア軍とフランス軍の応酬も迫力満点にして音楽的、トランペットやコルネットの明晰なアンサンブルは流石といったところ。大詰めでド派手に打ち鳴らされる大砲にあたるバスドラムは強打のあまりマレットの先端が吹き飛ぶ力の入りよう。全体としては鐘の音量、オーケストラのバランス等含めほとんど完璧に近い見事さだった。都響ほどのオーケストラがしっかり三日間練習をして仕上げるとこれほどの水準に達するのか、と瞠目した。

昨日に引き続き小泉さんがやはりマイクを取り、「名曲の良さを改めて味わいながら楽しんで演奏することが出来、こちらも幸せでした」といった旨のことをお話になった。しっかりと準備して仕上げたクオリティの高さ、名曲に新鮮な姿勢で臨み笑顔で演奏するオーケストラの士気の高さ、小泉さんと都響の自由度の高さ―様々なレヴェルの高さが一体となって思い出に残る名曲選となったことに感謝したい。アンコールのラコッツィ行進曲を聴きながら、そんな思いを抱いていた。

最後に余談なのだが、クラリネットの1番・2番の方がトランペット群の強奏時に頭を入れていたヘッドギアのような物は、どうやら最新式の吸音器らしい。金管のハイトーンを至近距離で浴びる木管奏者にとっては職業病に繋がる深刻な問題なのだろう―特に都響ほど強力だと。