2015/8/19
ラインガウ音楽祭 フランクフルト放送交響楽団
@クアハウス、フリードリッヒ・フォン・ティーアシュ・ザール(ドイツ、ヴィースバーデン)

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
〜ソリスト・アンコール〜
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番より 第1曲

ラフマニノフ:交響曲第2番

ヴァイオリン:五嶋龍
管弦楽:フランクフルト放送交響楽団
コンサートマスター:Alejandro Rutkauskas
指揮:アンドレス・オロスコ=エストラーダ


所属する大学合唱団のドイツ・イタリア遠征と組み合わせて、フランクフルト郊外のヴィースバーデンにて行われているラインガウ音楽祭の一公演を聴いた。
高級な温泉観光地として知られるヴィースバーデンのシンボルともいうべきクアハウスの中にあるホールは、添付写真の通り重厚な佇まい。いわゆる近代的な高分解能を誇るホールではないが、林立する石柱にサウンドが乱反射して豊かな音響を味わうことができる。今回、日本でも好んで選ぶ上手ステージ横(サントリーでいうRAブロック)に座したが、直接音多めで迫力ある音響を楽しめた。ティンパニのE音のみ異様にマスクされるのは不思議だったが、ご愛嬌といったところか。

演奏は地元ヘッセン州の雄・フランクフルト放送響(現在の正式名称はhr響)で、シェフを務めるオロスコ=エストラーダとの登場でロシアン・プログラムを披露した。この組み合わせは11月に来日公演を行うが、後半以外の演目と出演者は共通しているので先取りした形になる。

前半のチャイコフスキーの協奏曲はストレートとはかけ離れた、知性により細部まで彫琢された個性的な演奏で少々意外だった。五嶋龍はソロの録音を少々聴いてきた位の認知度だが、こういう凝ったアプローチを採る人だったか?
全曲の中でも1楽章の作り込みは相当に細かい。ルバートやポルタメント、パウゼや音価の長短まで五嶋節(?)が決まる。第3楽章は急速なテンポの中で比較的ストレートに展開されたが、強拍の位置に聴き慣れない箇所がちらほら。第1楽章始まってすぐの弾き損じや、ピッチのブレなどを含め、解釈の練り上げはこれからといった感も否めなかったが、これだけ能動的なチャイコンも珍しい。指揮者とオケは徹頭徹尾ソリストに追従、よくあれだけ自在なテンポ変化に対応したものだ。それでいて木管やティンパニをここぞという場面では華やかに開放するのがニクい。見事な仕事だった。
アンコールはイザイの無伴奏ソナタより一曲。怒りの日の旋律が二重に展開される名曲を気迫あふれる(足で床を何度も打ち鳴らす!)演奏で楽しんだ。個人的にはアンコールの方に好印象を持った。

後半はラフマニノフの名曲・交響曲第2番。このコンビの「交響的舞曲」は楽団の公式YouTubeで観ることができ、それは覇気ある見事な演奏だった。フランクフルト放送響は技術的には中の上だと思うが、指揮者・曲との相性で今回の交響曲第2番も素晴らしい演奏となった。このオケ特有の木管群の積極性、硬質なティンパニもプラスに働いた。
オロスコ=エストラーダの指揮は南米出身らしい尽きせぬエネルギーと強靭なリズム感・身体能力に裏打ちされた圧巻のものだが、同じ南米出身でもドゥダメルとは趣が異なる。ドゥダメルは拍節感はしっかりと打ち出すものの、曲全体の構築や雰囲気はオケ任せにしてしまう(近年のベルリン・フィルとのマーラー3番はその典型だ)。それに比してオロスコ=エストラーダは、独自の表現意欲をオーケストラに提案する。表現の押し付けではなく、楽団から沸き上がる自然な歌を自らの音楽へと引き込んでいるとでも言おうか。彼のセクション全体を抱え込むような指揮は止まることがなく、運動量は大変多いのだが、音楽の情報量もそれに比例して大変多くなる。第2楽章の中間部など、白熱のあまりアンサンブルが乱れることがあったが音楽の骨格がブレないのはオケと指揮者の相互理解によるところが大きいだろう。知情意のバランスが絶妙な彼の指揮で聴くラフマニノフが悪かろうはずはなく、ドイツオケらしい重心の低さ、突き上げるような甘美さを兼ね備えた名演が繰り広げられた。どの楽章も鳴らす箇所は相当豪奢に鳴らすが、音楽の流れが阻害されることはない。演歌にしようと思えばどこまででも出来てしまう終楽章コーダなど、これ以上ないのではと思えるような完璧なバランスでクライマックスが築かれた。圧巻としか言いようがない。

地元ヘッセンの名門が繰り広げた熱くも清々しいロシアン・プログラム。ラインガウ音楽祭は温泉観光地で行われているということもあるのか、お年を召した方が目立つ客席の反応はやや大人しかった。フランクフルトでの演奏であればもっと指笛が響いていただろう。
ラインガウ音楽祭は比較的地味なフェスティヴァルながら、登場する演奏家は一流が揃っており(この日も別会場で内田光子のリサイタルが行われていた)、フランクフルトから1時間強という優れたアクセスも魅力的だ。ヴィースバーデンの街の美しさも特筆すべきで、最高の余韻と共にフランクフルトへの帰途に就いた。