2015/10/19
サントリーホール スペシャルステージ2015 チョン・ミョンフン
~日韓国交正常化50周年記念~
オーケストラ公演Ⅰ「チョン・ミョンフン&ソウル・フィル」
@サントリーホール

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲
ブラームス:交響曲第4番
~アンコール~
ブラームス:ハンガリー舞曲第1番

ヴァイオリン:スヴェトリン・ルセヴ
チェロ:ソン・ヨンフン
管弦楽:ソウル・フィルハーモニー管弦楽団
コンサートマスター:スヴェトリン・ルセヴ
指揮:チョン・ミョンフン

4日間にわたるチョン・ミョンフンのスペシャルステージ、開幕。幕開けは韓国の手兵ソウル・フィルを振ってのオーケストラコンサートだ。ソウル・フィルはどうやらこれだけのための来日だそうだが、何とも勿体ない話。(まあ、距離的には遠くないのだが・・・)

一曲目のドッペルコンツェルトは同オケ首席客演コンマスのルセヴ、韓国の若手ソン・ヨンフンの共演。ルセヴはフランス放送フィルのコンマスを務めており、おそらくはチョンさんとの縁でソウルと兼任しているのだろう。冒頭のトゥッティから14-14-12-10-8という変則16型の大オケは分厚く鳴り、ソリストの2人を包み込むような響き。
あまり個人的にこの曲は佳さが分からないのだが、久々に実演で聴いて晦渋ではあるが味わい深い曲だと思えた。ソロはルセヴが鋭くリードし、ヨンフンは若干気遅れが出ていたように思う。巧いのは間違いないのだが、ソリストとしての余裕に欠けるというか―。チョンさんはこの曲から暗譜、余裕のタクト捌きで全曲をそつなく構築していった。

二曲目のブラームス4番、これは冒頭の旋律からふわりとした呼吸感が絶品、この絶妙なタイミングはオペラ畑の指揮者だな、と強く印象付ける。オーケストラは16-16-14-12-10というチョンさんお得意の変則18型の大編成だが、ゴリゴリと弾くのではなく各声部の厚みが3割増しになったかのようだ。強いて言えば1stヴァイオリンと2ndヴァイオリンが同数ということからか、あまり区別する意味が感じられなかった。(=2ndヴァイオリンが「第2ファーストヴァイオリン」になっていたということ)これは各セクションの押しの強さ故なのだが、殊ブラームスにおいてはこのあたりの陰影が更についていればよかったと思う。全体的に何の危なげもなく曲は進み、チョンさんのオペラティックなアゴーギクにも余裕で分厚く追随、長年の信頼関係の賜物であろう。ホルン群をはじめ金管や打楽器も実に巧く、欧米の名手をトップに据えているとはいえオーケストラの水準の高さには目を見張るものがある。先述したように曲の表情に若干金太郎飴的なものを感じたが、高水準なブラームス演奏だったと思う。

―しかし個人的には、沸きに沸いたアンコールのハンガリー舞曲第1番を含め違和感が最後まで拭えない演奏会だった。繰り返すが水準はほんとうに高く、日本のオケはだいぶ上を行かれていると思ったのだ。それでも彼らの演奏に心から感動できなかった理由がある。それは、彼らの演奏における「熾烈な競争意識」の存在だ。
韓国社会は競争意識が高く、受験戦争なども日本のそれより遥かに過酷だときく。チョンさんは在任中にかなりの楽員を入れ替えたと聞くが、それも韓国の社会構造に合致していたのだろう。その結果、欧米で経験を積んだ若手を中心とするスーパー・オケがここに完成したのである。楽員の平均年齢はとても若く、女性が多い。彼女たちはおそらく競争を勝ち抜いてきた自負と、自分が出し抜かれることへの怖れを同時に持っているはずだ。その殺伐とした競争意識が、当夜サントリーホールに響いたブラームスには濃厚に漂っていた。この意識は、マーラーやショスタコーヴィチには好作用したかもしれない。だが、ブラームスの安寧には―。

この煮え切らない感情は、翌日の東フィル公演で綺麗に霧散することになった。