2015/10/27
パルティトゥーラ・プロジェクト
ベートーヴェン ピアノ協奏曲全曲演奏会 【第1回】
@すみだトリフォニーホール

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番(リベール)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番(グーアン)

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番(ピレシュ)
~アンコール~
ラフマニノフ:6手のための3つのピアノ作品より ロマンス

ピアノ:マリア・ジョアン・ピレシュ、ジュリアン・リベール、ナタナエル・グーアン
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:西江辰郎
指揮:オーギュスタン・デュメイ

名ピアニスト、マリア・ジョアン・ピレシュがすみだトリフォニーホールを中心に展開する「パルティトゥーラ・プロジェクト」が幕を開けた。このプロジェクト、ピレシュが教鞭をとるエリーザベト王妃音楽院が彼女の信念に共感して立ち上げたものだという。
「コンクールにて他者と競い合う中、若い演奏家は自己利益を求めがちになる。演奏家が奏でる音楽を特別なものへと昇華させ、聴衆を至福の時間へと誘うために他者との共存や分かち合いを目指す」―これがパルティトゥーラ・プロジェクトのモットーだ。音楽に神秘的な力が宿る瞬間、つまりは"Grace"(神の慈しみ、恩寵)を成し得るための様々な工夫が込められている。 世代の異なる演奏家が互いの演奏を聴き合い、好影響を及ぼしあうというのが大きな特徴だろう。

前半に2つの協奏曲を奏でたのはベルギー出身のジュリアン・リベール、フランス出身のナタナエル・グーアンという若手二人。両者とも1980年代後半の生まれであり、エリーザベト王妃音楽院にてピレシュに師事している。
どちらも強烈な個性を持つピアニストではないが、 若々しい息吹を感じさせる演奏だった。特に弱音の繊細な扱い、フレージングの作り方には師であるピレシュの好影響を感じさせた。個人的な好みで言えば1番を弾いたリベールが思い切りがよく、好み。(曲の個性も多分にあるとは思うが)デュメイが指揮する新日本フィルは、バロック楽器こそ使用せずともかなり古典派寄りのベートーヴェン。特に規模が小さくなる第2番ではその色合いが強まった。ヴァイオリン群のヴィブラートは最小限の使用、管楽器は歯切れがよく縁取りがはっきりした演奏だった。小気味よさはかなりのもので、初期作品にはぴったり。

後半の第3番、いよいよ2人の師たるピレシュの登場だ。 オーケストラは前半より陰翳を深め、ほの暗いベートーヴェンの音色が聴こえて来る。ハ短調という調性、曲の性格によるところもあるが、かなり骨太なバックを展開した。このあたりのデュメイの采配は実に芸が細かく、名ヴァイオリニストであることは周知だが指揮者としても芯がある人だと思わせられる。弦楽器を中心に、新日本フィルが的確に応えていたのも良かった。
そしてピレシュのソロ―予想通りというか、予想を遥かに上回る素晴らしさ。声高に主張するような演奏では決してないが、一音ごとの説得力、零れ落ちるような風情がほんとうに沁みる。第1楽章のカデンツァでは年齢に似合わぬ(失礼!)強靭なタッチ、揺るがせにしない構築をも披露したけれども、第2楽章のラルゴの魅力には抗いがたい。これを聴くためにやってきたのだ、という感じ。

残念ながら客入りは芳しくなかったが、喝采は熱い。ピレシュは幾度もステージに呼び戻され答礼を受けた。何度目のカーテンコールかで彼女は前半を弾いた二人を引き連れて登場し、なんと六手による演奏を聴かせてくれた。(もともと六手のために書かれた作品がラフマニノフにあるとは知らなかった)「パルティトゥーラ・プロジェクト」の趣旨に相応しい、世代を超えた音楽家の心的交流を聴衆にもおすそ分けしてくれた形となり、何とも温かな余韻を胸に帰途に着いた。