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November 04, 2015

2015/11/4 ビエロフラーヴェク/チェコ・フィル スメタナ「我が祖国」

2015/11/4
NHK音楽祭2015 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
@NHKホール

スメタナ:連作交響詩「我が祖国」
~アンコール~
ドヴォルジャーク:スラヴ舞曲第9番


管弦楽:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
コンサートマスター:イルジー・ヴォディチカ
指揮:イルジー・ビエロフラーヴェク

プレトークで奥田先生も仰っていたが、チェコ・フィルで「我が祖国」を聴くことそれ自体が無形文化財に接するようなことだ。しかもそれが、円熟を極めた名匠ビエロフラーヴェクの指揮ならば役者は揃ったというもの。

思えば、このオーケストラは決して平坦な道のりを歩んできたわけではなかった。ビロード革命以後、初の外国人シェフとしてアルブレヒトを迎え、その後もアシュケナージらを迎えているが、チェコ音楽界の至宝とも言えるオーケストラを率いる立場は文化面のみならず政治的にも複雑で、円満な音楽活動が難しかった組み合わせもあった。
日本公演は必ずしも時のシェフが指揮した訳ではなく、デュトワ、ブロムシュテットら我が国で人気の指揮者がしばしば率いた。2009年から2012年までの3年という短期間だが、インバルも首席指揮者を務めていた。この組み合わせでの来日公演は実現しなかったが、2009年の秋にはインバルは都響と、ブロムシュテットはチェコ・フィルとそれぞれブルックナーを演奏するという少々面白いことが起きていたのをよく覚えている。結局インバルも政治的理由による事務局との対立から退任した。(近年も客演していて、オケとの関係自体は良好なようだが)
そこへ来て今回のビエロフラーヴェクが就任したのだが、彼は首席の座に「返り咲き」したのである。ビロード革命後すぐのシェフとして彼は任命されたが、それは2年間という短期政権に終わった。その後国外での地道な活躍、国内での教育者としての貢献を経て満を持して返り咲いたビエロフラーヴェク。いまや巨匠の風格を漂わせる彼とチェコ・フィルの「我が祖国」とはいかなるものか。

まず編成と独特の楽器配置に目がいく。ウィーン・フィル、サンクトペテルブルク・フィルといった独特のローカル色を固持するオケは配置に拘りを持っているが、チェコ・フィルもそういうオケだったのだ、と思い出す。
16型の弦楽器はコントラバスが舞台後方にずらりと一列に並ぶ。木管楽器は一部を除き倍管、打楽器はすべて舞台上手に寄せられていた。家に帰ってこのコンビが近年演奏した「プラハの春」の映像を観てみたら、ほぼ同じで納得。ただ一点違うのは、なんとプラハでの演奏はハープが6台という贅沢ぶりだったこと。ヴァーグナーの楽劇と同じ規模である。

演奏は極上だった。郷を同じくする指揮者とオーケストラは誇り高く全6曲を奏でたのだが、何より嬉しかったのは「チェコ・フィルの我が祖国」という名演が保証されたブランドに留まるのではなく、新たな表現の余地を感じさせてくれたことだ。たとえば、第5曲「ターボル」では連打されるティンパニのD音のみを2人の奏者に叩かせて強調。(ティンパニが2対叩かれたのはここだけだった)他にも、倍管というリッチな布陣を活かして繊細な音量調節が行われていたし、弦楽器のフレージングにも独特の箇所がいくつかあった。また第3曲「シャールカ」のソロ・クラリネットも最高だったし、曲中何度も叩かれるシンバルの余韻も打楽器とは思えぬほど柔らかな余韻を伴ったものだった。(2種のシンバルが用意される拘り様だった)
自信に溢れるオーケストラを見事に束ねたビエロフラーヴェクの指揮は堂々たるもので、 テンポの動かし方などは弟子にあたるフルシャと共通する機敏さを感じさせた。決して主張の強いアプローチではないが、どこまでが指揮者の設計で、どこからがオーケストラの語法なのか、皆目見当がつかない。これほどまで隅々まで同化し「我が祖国」を聴かせてくれるのは、世界でもこのコンビだけに違いない。

終演後はまさかのアンコールで、スラヴ舞曲の第9番。 「我が祖国」の余韻を胸にホールを後にしたい気持ちも無くはなかったが、純粋に楽しんだ。チェコ・フィルの女性メンバーは白を基調とし、所々黒色もあしらったドレスに身を包んでいた。落ち着いたモノ・トーンで統一されたこの名門楽団は、いま名匠との蜜月にあることを確信した。DECCAレーベルへの更なる録音も期待したい。


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takupon68 at 23:30│Comments(2)TrackBack(0)公演評 

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この記事へのコメント

1. Posted by マイスターフォーク   November 15, 2015 23:04
4 このたびのはノイマン、コシュラー、マカルとライブで聴きましたが一番良かったと思います。

ローカルな味わいを残しながら温かく情熱的なマイカントリーでした。


でもヴィブラートたっぷりな平べったい音のクラリネットの方は退職のようですね。

弦はかなり良くなってました。
2. Posted by 平岡 拓也   November 15, 2015 23:39
マイスターフォークさま、コメントありがとうございます。

自分も途中から放送で観たのですが、本当に素晴らしい演奏だったと思います。

世代交代はなされているようですが、まだまだ女性率の少なさはチェコ・フィルらしいですね。

同胞であるビエロフラーヴェクのもと、更に充実した活動が続くものと思います。また来てほしいです。

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2015/11/2 大野和士/都響 ラヴェル、プロコフィエフ、細川俊夫、ドビュッシー2015/11/6 藤岡幸夫/シティ・フィル ベートーヴェン、ヴォーン・ウィリアムズ