2015/12/18
読売日本交響楽団 FUJITSU Presents 「第九」特別演奏会
@サントリーホール

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

ソプラノ:イリーデ・マルティネス
メゾ・ソプラノ:清水華澄
テノール:吉田浩之
バリトン:オラフア・シグルザルソン
合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤洋史)
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:日下紗矢子
指揮:上岡敏之

来年9月から新日本フィルの音楽監督に着任予定で、すでにアーティスティック・アドバイザーの任にある上岡敏之が読響「第9」に客演。日本のオケの中ではもっとも関係の深い読響との組み合わせで、彼ならではの「第9」像が鮮烈に提示された。

合唱は第1楽章開始前に入場済み。オーケストラの編成は14型でごく普通だが、そこから展開された音楽はまったく斬新だった。冒頭の空虚五度の刻みから相当に速いテンポなのだが、そこから第1主題の登場が完全にシームレスに移行したのには驚いた。「ビッグバン」とも呼ばれるように、激烈に登場するはずのこの主題が、あたかもそこに存在するのが当然かのように現れたのだ。その後も音楽は弾むように滑らかに進み、あっという間に第2楽章へ。スケルツォの反復は省略、弾むようなリズムには気品すら漂う。この楽章の終結はふわりと弓を浮かすような処理が成されており、これまた独特だった。
第3楽章もやはり速いテンポなのだが、ここでは物理的なスピードより音楽の爽やかさが印象的だ。以前新日本フィルと聴かせた「田園」でも感じたエレガントさが、この穏やかな楽章にも持ち込まれていた。部分的にノン・ヴィブラートも使用していたのかもしれないが、「大きな室内楽」という表現ではなく、本当に室内楽をやるような神経が働いていたように感じる。日下さんのリードに拠るところも大きかろう。
第3楽章と第4楽章はアタッカで繋げず、打楽器奏者と独唱を入れて間もたっぷり取る。第4楽章をアタッカで始めない指揮者の主張として、「先行楽章は終楽章の序章ではない」というものを耳にしたことがあるが、上岡さんもそう仰るのだろうか。ともかく、間を取って開始された終楽章―これがまた凄かった。オーケストラのみならず、聴衆の側もどこで呼吸をして良いのか分からないほど轟々と音楽が流れていく。第1-3楽章が否定され、歓喜主題が低弦で登場する間のパウゼは比較的たっぷり取られたが、そこ以外は殆ど間髪入れずに音楽が進む。典型的なのは合唱の"Vor Gott!"を全く伸ばさず、ただちに行進曲へと移行した箇所だろうか。声楽陣はこの疾風怒濤の要求に応え、確かなアンサンブルを保っていた。上岡さんの跳ねるような棒の動きにピタリと付け、アクセントを加える新国合唱団は流石にプロである。独唱ではMsの清水さん、Bのシグルザルソンが気を吐いた。当然終結のプレストはバイロイトもかくやという猛速で締めくくられる。

客席にはとまどいの色も見えたようだが、上岡さんの要求に最大限の誠意で応じた読響には驚きである。管楽器にとっては運指や呼吸と音楽のズレが当然危ぶまれるテンポだし、弦楽器にしてもあの名手揃いの読響が皆顔を真っ赤にして弾きまくっている。上岡さんとて奇を衒ったわけではなく、「スコアに書いてあることだけをやった(楽屋口にて本人談)」 結果なのだろうが、これだけ協力的なオケをいつも得てきたわけではないだろう。驚天動地の「第9」であった。正味の演奏時間は57分程度だったか。