2016/1/16
神奈川フィルハーモニー管弦楽団 第315回定期演奏会
@横浜みなとみらいホール

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲
~ソリスト・アンコール~
J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番より 第3楽章 Andante

ブラームス:交響曲第2番

ヴァイオリン:佐藤俊介
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団
コンサートマスター:﨑谷直人 
指揮:モーシェ・アツモン 

1978年~83年に都響のシェフを務めた名匠・モーシェ・アツモンが神奈フィルに客演。名フィルの名誉指揮者でもある彼、東海地方ではマーラーの第3番やベートーヴェン「第9」などで腕をふるっていたようだが、首都圏オケへの客演は2011年4月の都響以来のはず。震災直後に都響で振ったブラームスの2番を携えての公演だ。

前半、佐藤俊介をソロに迎えたブラームスのヴァイオリン協奏曲。アツモンが導く響きは王道そのもの、19世紀的な薫りが漂う。気宇壮大な導入からソロにバトンが手渡されると、佐藤さんはまるで毛を逆立てたハリネズミのような怒気で応じた。フレージングにも即興的な要素が多く、ハンガリーの路傍の楽師といった趣。その奔放にして大胆な演奏は、もしかしたら初演者のヨアヒムはこんな演奏をしたのではなかろうか、と思わせる。ブラームスはジプシー音楽に強い拘りを抱いていたし、ヨアヒムもハンガリー出身のヴァイオリニストだった。そこまで遡った上での考証的解釈とすれば実に興味深い。演奏自体で言えば、ガット弦の響きは新鮮で、楽曲中の動機から精妙に練り上げた自作カデンツァも素晴らしい。指揮のアツモンもハンガリー出身だが、彼が作る音楽はヨーロッパの正道を往くものであった。両者の方向性はやや異なっていたが、「競」奏曲としての面白さを堪能した演奏だった。 

後半のブラームス2番、オケは前半と同じ14型。アツモンは御歳84歳だが、舞台姿、指揮ともに矍鑠としており壮健そのもの。コンチェルト同様暖色系の響きを作りつつ、引き締めるところはしっかり振って素晴らしいブラームスを展開した。イスラエル人であり、都響でマーラーを多く指揮するなど、インバルと重なる点の多いアツモン。彼の音楽にも、若干の共通言語が聴き取れた。ユニゾンはたっぷりとした弓圧で弾かせ、ピッツィカートなどの隈取りも抜かりない。全体の構築の見事さ、柔らかい歌心、終楽章コーダにおける無理のない高揚と、これだけのレヴェルでブラームス2番を振れる指揮者がいまどれほどいるだろうか。トロンボーン群の濁りは全体的にやや惜しかったが、内声の交錯を自発的に表出させた弦5部はじめ、神奈フィルの献身も素晴らしい。どことなく中央ヨーロッパの風景が浮かんできたのは、アツモンの年の功のなせる技だろうか。

来シーズンは12月名フィルに客演するアツモン。これだけ滋味深いブラームスを聴かせてもらっては俄然行きたくなるというもの。円熟のマエストロという言葉は彼にこそ相応しい。