2016/4/16
日本フィルハーモニー交響楽団 第316回横浜定期演奏会
@横浜みなとみらいホール 大ホール

ヴェルディ:レクイエム

ソプラノ:安藤赴美子
アルト:池田香織
テノール:錦織健
バリトン:妻屋秀和
合唱:晋友会合唱団
合唱指揮:清水敬一
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:扇谷泰朋
指揮:ピエタリ・インキネン
 
9月から日フィルの首席指揮者に就任するピエタリ・インキネン。今回の横浜・東京定期が2009年からその任にあった首席客演指揮者としてのラストを飾るものとなるわけだが、タイトル如何に関わらず、一人の指揮者がオーケストラと共同作業を重ねていくのは双方にとって好ましいケースが多い。日フィルは特にそのパターンで、ラザレフ・インキネン・山田和樹という充実のマエストロ陣が代わる代わる辣腕を振るい成長を続けている。インキネンの就任後もラザレフは桂冠指揮者兼芸術顧問として引き続き来演するそうだ。(日フィルサイドによれば、これまでラザレフ:インキネン=3:2だったのが逆の比率になるとのこと。要はそれほど変わらない)

インキネンが今回持ってきたプログラムは、東京と横浜のいずれもこれまでの彼の毛色とはやや違ったもの。ヴェルディ「レクイエム」とブリテン・ホルストという英国作品で、シベリウスやマーラーだけではないぞ!というアピールのようにも聴こえる。フィンランド出身ゆえに彼はシベリウスへの拘りも勿論あるのだが、プラハ響のシェフとしてチェコ音楽や現代音楽も振り、ヴァーグナーを劇場でサイクル上演した経験も持つ。今夏にはドレスデンのゼンパー・オーパーで「エフゲニー・オネーギン」のプレミエを指揮するようだ。

入祭唱冒頭の弦の弱音から指揮者の意志が透徹し、繊細にして血の通った柔らかなサウンドがホールを満たす。インキネンは現役のヴァイオリニストでもあり、ストリングスの響かせ方には毎度感心させられる。「大地の歌」でもそうだった。合唱が入って音楽が膨らみ、"Kyrie eleison"からソリストが入ってくる箇所までに既に涙が出た。悲劇性を煽るようなアプローチではないだけに、余計に九州の地震が頭によぎってしまった。インキネンの音楽は何のハッタリもなく真摯で、しかし音楽のフレーズ感・呼吸をしっかり押さえた見事な指揮。イタリア的激情迸る演奏、厳粛極まる式典のような演奏のどちらにも与さず、日フィルと晋友会合唱団・ソリストを着地点へと的確に導いた。ティーレマンにも似た大振りの指揮も無駄な要素が少なく、安定感がある。
前述したように弦楽器の音色には強い拘りを感じ、オーケストラもよく応じていたが、更に楽団全体を貫く太い背骨が加わればいうことはない。管・打楽器はアインザッツがより整えば大きく印象が改善されると思う。"Sanctus"の力強いトランペットの響きなど、強力な首席奏者に率いられているパートは至極素晴らしい。
晋友会の合唱はよく鍛錬されており、とくに男声は声楽的な節度と表現の熱っぽさのバランスが見事だった。後半にかけて劇性が増していった印象。直前でソプラノが交代した声楽陣は冒頭から重唱の融け合いが素晴らしく、その中でもメゾ・ソプラノの池田さんの表情付け、深い美声が全曲を通して見事だった。メゾはこの曲で非常に重要な要素なので、これは実に嬉しいことだった。テノール錦織さん、バスの妻屋さんもよかったのだが、前者は独立するとやや弱く、後者はいつもの抜けるような低音ではなかったように思う。"Libera Me" での一人語りがあるソプラノ安藤さんも手堅く決めていた。

インキネンと日フィルのこれからが楽しみである。様々なレパートリーで、彼らならではの演奏が期待できそうだ。