2016/6/2 テミルカーノフ/サンクトペテルブルク・フィル ショスタコーヴィチ2016/6/4 中村恵理 ソプラノ・リサイタル

June 03, 2016

2016/6/3 ネゼ=セガン/フィラデルフィア管 シベリウス、武満徹、ブルックナー

2016/6/3
フィラデルフィア管弦楽団
@サントリーホール 大ホール

シベリウス:交響詩「フィンランディア」
武満徹:ノスタルジア―アンドレイ・タルコフスキーの追憶に―(1987)

ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」

ヴァイオリン:五嶋龍
管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団
コンサートマスター:デイヴィッド・キム
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
 


ネゼ=セガン/フィラデルフィア管弦楽団、2度目の来日公演。前回来日時のマーラー「巨人」は放送で観たのだが、前半の「ジュピター」含め雑然とした解釈、演奏で正直印象が芳しくなかった。
今回の来日は数年経って熟した響きを期待していたし、それに加えて前夜に重大な発表が行われたのだ―シェフであるネゼ=セガンが2017/18シーズンからメトロポリタン歌劇場の音楽監督に就任、さらにフィラデルフィア管弦楽団の任期も延長―つまり彼は、北米の2大ポストを一挙に掌中にしたわけだ。フィラデルフィア管の大阪公演をフェスティバルホールで振り終えた後、ネゼ=セガンはメトロポリタン歌劇場のカンファレンスに中継で出席。ゲルブ総裁らの厚い期待を受け、たいへんに上気した様子だった。そんなセンセーショナルな発表から一夜明けた今回の演奏、期待するなというのがおかしい。(プログラムの意図はよく分からないが)

オーケストラはチェロ外側の通常配置で16型、この配置を見て、なるほどこのオケはかつてストコフスキーの手兵だったのだと合点。冒頭シベリウス「フィンランディア」から芯の太い音、肉厚な弦が滴る。金管は充分に鳴るが他のセクションとのブレンドが絶妙で、聴き手にはオーケストラとしての一流の品格がビシビシと伝わってくる。この上質な感覚はなかなか聴けるものではない。前日に聴いたサンクトペテルブルク・フィルのような「体臭」は無いものの、紛れも無い独特のサウンドだろう。ネゼ=セガンは中間部の歌を丁寧に振り、真摯な演奏。

続いてオーケストラを縮小しての武満徹「ノスタルジア」。1986年に逝去したロシアの映画監督アンドレイ・タルコフスキーの追憶とされている。作品名もタルコフスキーが制作した映画によっているのだろう。タルコフスキー映画の特徴は独特の世界観による映像美、とくに水を用いた描写にあるとされるが―この武満作品は彼らしい手法によるタルコフスキーへのオマージュとして優れた価値を有する。暗い水底から世界を見るような弦楽合奏の響きが独特で、五嶋龍の独奏は浮き立つのではなく、どちらかというとオケに融け込み好印象だ。先ほど聴いた「フィンランディア」の円やかな響きとは一変、虚無すら感じさせるモノクロームな音楽にしばし聴き入った。欧米のオーケストラが演奏する武満は、不思議な魅力がある。

後半はブルックナーの「ロマンティック」。旧くはオーマンディ、少し前だとサヴァリッシュとも名盤を残すフィラデルフィア管のブルックナー演奏であるが、特にこの第4交響曲は彼らに最適ではなかったか。自然美を屈託なく表出させつつ、オーケストラの絶対的な安定感がこの上なく心地よい。日本のオーケストラのブルックナーもかなりのレヴェルに達していると信じているが、各セクションの余裕やピタリと嵌るハーモニーの美しさでは流石にフィラデルフィア管弦楽団に軍配が上がる。複雑な妙味というよりは、明朗で曇りの無いサウンドを伸ばしていくオケはあまりに凄く、強奏で響きの密度がより上がるのだ。弦楽器のしっとりとした質感、シームレスな感覚も特有のもの。第1楽章コーダでの余裕綽々のホルン群や、後半楽章で斉奏する金管のパワー&音響美は耳のご馳走と言うしかない。ネゼ=セガンは美しく歌を紡ぎしなやかな指揮、楽曲の構造を厳格に提示するのではなくオーケストラと共に愉しんでいたようだ。第3楽章以後は何度も虹が見え、ダメ押しの終楽章コーダ(チェリの刻みを応用!)では虚空を見上げるような充足感を得た。彼はジュリーニの音楽に影響を受けたようだが、その他にも数々の大先達の色が見え隠れした。

前日のペテルブルク・フィル、今回のフィラデルフィア管、共通するのは「自分達にしか奏でられない音楽」という点だ。ヴィルトゥオジティで更に上位クラスを往くオケはあろうが(とはいえフィラ管はトップクラスだが・・・)、信頼する指揮者と響かせる楽音を聴くのは何物にも代え難い喜び。厚くお互いをリスペクトするカーテンコールも含めて、心から充たされた。良い音楽だった!

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takupon68 at 23:00│Comments(0)TrackBack(0)公演評 

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