2016/6/24
読売日本交響楽団 第559回定期演奏会
@サントリーホール 大ホール

ベルリオーズ:序曲「宗教裁判官」
デュティユー:チェロ協奏曲「遥かなる遠い国へ」
~ソリスト・アンコール~
J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番より プレリュード

ブルックナー:交響曲第3番「ヴァーグナー」(ノヴァーク版第3稿)

チェロ:ジャン=ギアン・ケラス
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:長原幸太 
指揮:シルヴァン・カンブルラン

流石は知将・カンブルランと言うべき好プログラミングだ。昨年の読響定期の中でもモニュメンタルな上演となった「トリスタン」全曲に始まり、来週のリスト&マーラーへと架かる大きな弧の中間地点が今回の定期である(他にも弧の周辺要素はあるかもしれないが)。
すべての曲が、時代を超えたカンブルラン流のヴァーグナー・オマージュであると同時に、ヨーロッパの連関も感じさせる。ベルリオーズからはシェイクスピア=イギリスを間接的に連想させ、デュティユーはフランス、ブルックナーはドイツ・オーストリア芸術を体現する。一つの演奏会が鮮やかな文化対照の場と化し、更に時勢(前日の衝撃的な英国EU離脱)までが、「ヨーロッパ性」ということの意義・是非をも強く感じさせた一夜だった。これはまさに一期一会の体験である。

冒頭はベルリオーズ「宗教裁判官」序曲、コントラファゴットが入り、「幻想」ばりにテューバは2本という異質な編成(やはり作曲家はヘンタイだ)である。そこから出てくる音楽も独特だがラモーのような響きも遠景に聴こえるのは、カンブルランの指揮特有のものだろうか。ベルリオーズの巨大志向は間違いなくヴァーグナーにも影響したのだろう。

中プロ、デュティユーのチェロ協奏曲はケラスの独奏とオケの融け合いが美しく、精妙な味わいは特筆モノ。表題はボードレール「悪の華」所収の「髪」から採られており、各楽章のタイトルにもボードレールの詩が用いられている。楽曲としては主題労作的な要素が強く、何の抵抗もなく20世紀フランス音楽として愉しむことができる。なお、ボードレールは熱狂的なヴァーグナー音楽信者だったと言われる。ケラスはアンコールのバッハも伸びやか。(ただバッハの様式としてはどうなのか、と思わないでもないアーティキュレイションだったが)

後半はブルックナー第3番。「ヴァーグナー」という副題はいま用いられないようだが、敢えてこの演奏会ではそう冠しても良いだろう。ヴァーグナーにこの作品を献じたブルックナーもまた、巨匠の音楽に心酔した。最初は第2稿での演奏と発表されていたが、結局引用が減らされた第3稿になってしまった。第1稿の演奏は増えているが、第2稿による演奏機会は滅多にないので残念。カンブルランの指揮は各声部の見通しが良好、決して停滞せず充実度にも欠かぬバランス感覚に瞠目した。ブラスの安定感もなかなかのもの。ただ全体的な感銘はあまり深くなく、オーケストラの合奏がどこか落ち着かない印象を受けた。読響は今年度に入ってからやや心配な演奏が多い。