2016/8/26
KBS交響楽団 第709回定期演奏会
@芸術の殿堂 コンサートホール(韓国、ソウル)

ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第2番
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番
〜ソリスト・アンコール〜
モシュコフスキ:15の技巧的練習曲集 Op. 72より 第11番 変イ長調

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
〜アンコール〜
チャイコフスキー:歌劇「エフゲニー・オネーギン」より ポロネーズ

ピアノ:ベンジャミン・グローヴナー
管弦楽:KBS交響楽団
指揮:ヨエル・レヴィ
 
ソウル滞在3日目はKBS交響楽団の定期演奏会へ。かつてキタエンコなどもシェフを務めたオケで、韓国放送公社(KBS)に所属している。KBSホールと芸術の殿堂で演奏会を開くというから、ほぼ韓国のN響といった感じだろう。今はイスラエル出身のヴェテラン、ヨエル・レヴィが音楽監督として多くの演奏会を振っている。9・10月も彼が振るし、ベートーヴェン・ツィクルスなども行うようで、相当量の仕事を担っているのだろう。

そんなレヴィが振るベートーヴェン、「レオノーレ」序曲は珍しい第2番。第1、第2を聴くと毎回、いかに第3番が曲として緊密で完成度が高いかを再認識する羽目になるのだが、今回も同様の感触だ。いきなり16型倍管という大きな編成で、その規模から想像に難くない豊満な音が響く。レヴィは暗譜で丁寧に振るが、アタックが柔らかく、ほぼインテンポなのでメリハリ効果はあまりない。このあたりで、前回彼を東響との共演で聴いた時の記憶が蘇ってきた。その時はベートーヴェン第4番やプロコフィエフ「古典」、正直良い印象はあまりなかった。

協奏曲では流石に14型に縮小、管楽器も一般的な2管で演奏。温かみを通り越してどこか懐かしさすら漂うレヴィのアプローチは序曲と同じ(そして暗譜、譜面台も置かず!)で、なんの小細工もなくオケをしっかり鳴らしながら進めた。それは結構なのだが、第2楽章の表情が幾分金太郎飴気味で苦しい。木管にも正確さ以上のものを求めたいところがある。ベンジャミン・グロヴナーは確かな人気と実力のあるピアニストで、詳しい方によるとハフとアンスネスの弟子筋らしい。なるほど2人の影が見える透明感ある音色とタッチの選択、ベートーヴェン演奏でこれほど解き放たれた軽やかなソロもなかなか聴けるものではない。オケのヴィブラートをたっぷり使ったサウンドとはあまり合わないが、却って対照的で良かったのかもしれない。アンコールのモシュコフスキも流れるようなソロ。

後半は当然16型4管でのストラヴィンスキー「春の祭典」。この曲は今やオーケストラ・ピースの代表格となった感すらあるが、完全暗譜・慣れた棒さばきでヒョイヒョイと振るレヴィの姿を見ていると余計にそう思う。最初のファゴット・ソロから最後の衝撃の不協和音まで、おそらくは設計され尽くした音楽だ。その安定感抜群の棒に乗って演奏者は奏でていけば良いのだが、この曲の原液カルピス級の衝撃度は何十倍にも希釈され、サラサラとしたものになっていた。演奏自体はやはり重めで音を置いていく路線で、これはKBS響の優秀な弦にも合っていて相当に聴きごたえはある。一番奏者に招聘とみられる奏者を据えた管楽器も概ね優秀だ。打楽器ではバスドラムの女性奏者が体当たり的で大変良かったが、第2部「生贄の讃美」あたりから第1ティンパニをはじめ、管・打楽器の齟齬はあったかもしれない。弦も緊迫度が高まるとややブレる場面がある。全体的には、ソウル・フィルより守りに入った良くも悪くも安定感のあるアンサンブルだ。金管は巧い。

アンコールにはこれまた重くインテンポ志向でチャイコフスキーのポロネーズ。KBS響は女性奏者も統一でスーツ、客層も高額席の割合が多く、またフライング拍手はしないなど昨日以前のソウル・フィル(客層が若く、女性の団員は黒基調であとは自由)とはかなり違う。レヴィ監督は人気のようで、終演後のサイン会でも笑顔を振りまいていた。