2016/8/25
ソウル・フィルハーモニー管弦楽団
Eliahu Inbal and Olga Kern
@芸術の殿堂 コンサートホール(韓国、ソウル)

ブラームス(ドヴォルジャーク編曲):ハンガリー舞曲
第17番 嬰ヘ短調
第18番 ニ長調
第19番 ロ短調
第20番 ホ短調
第21番 ホ短調 – ホ長調

ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
~ソリスト・アンコール~
プロコフィエフ:4つの練習曲 Op. 2より 第4番

ブラームス:交響曲第2番
~アンコール~
ブラームス:ハンガリー舞曲第5番
ブラームス:ハンガリー舞曲第1番(指揮者無しによる演奏)

ピアノ:オルガ・カーン
管弦楽:ソウル・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:エリアフ・インバル
 
昨日に引き続きインバル×ソウル・フィル。昨日の公演の様子はこちらを参照いただきたい。
3階のBox席から2階のL側バルコニー席のP寄り(サントリーホールで言うLAブロックの三角地帯あたりだろうか?)に席を移して聴く。昨日も決して客入りは良いとは言えず6割程度の入りだったが、今日は更に少なく半分ほどだろうか。1階、2階はガランと席が空いている。私がいる最安ブロック(約1000円!)はギッシリだ。同時刻にロッテコンサートホール開館記念シリーズのマーラー「第8番」が重なったので、ソウルの音楽ファンはそちらに行ったのかもしれない。なお、 マーラーの公演は27日に聴く。

前半のドヴォルジャーク編曲「ハンガリー舞曲第17番-第21番」、ブラームスのロマ音楽への温かな目線がドヴォルジャークの管弦楽法と合わさった名品だ。インバルは事前のインタヴュー動画で「ハンガリー舞曲は短い音楽だが、軽い音楽ではない。人間の喜怒哀楽がすべて詰まっている」と語っていたが、その言葉に偽りはなかった。主部と中間部のリズムの対比を緩急豊かに打ち出し、中間部の引き締まった舞曲においては明確に彼の個性を刻印していく。インバルの粘りの効いたフレージングを弦楽器がよく咀嚼し、管楽器は彼の棒に導かれるままに歌う。5曲をほぼアタッカで一気呵成に振り通したが、愛と情熱が美しいこの曲集はいつか日本でも取り上げてほしい。

続いてはオルガ・カーンとのラフマニノフ「パガニーニ狂詩曲」。 インバルは譜面台を斜め左にずらし(協奏曲ではお決まり)、明確にソロと対話しながら丁寧に振っていく。劇性のあまりやや合奏が乱れた昨日に比べて、全プロ3曲中で最も改善されたのがこの曲だった。構えの大きなインバルの指揮は伴奏というレヴェルでは到底なく、14型オケの剛毅な響きの上にオルガの精緻なピアノがリズミカルに舞う、という構図。最初の数変奏のどこかで一瞬ピアノとオケがズレかけると、次の瞬間にインバルが指示を出してすぐに修正される。譜面を置いていたとはいえ、インバルの冴えは80歳の指揮者とは到底思えない。リズム的な難所もことごとくクリアされていた。それでいて有名な第18変奏では思い切り管弦楽を解放して存分に歌わせる。
喝采に応えアンコールではプロコフィエフの練習曲が奏された。昨日のラフマニノフも良かったが、技巧の冴えが心地よい彼女には今日の方が合っていたかもしれない。

後半のブラームス「交響曲第2番」。昨日の火の玉のような凄みはやや後退し、全楽章でインバルのアプローチが浸透して説得力ある演奏になった。インバルとオケの一進一退的な演奏を聴いてしまった身としては少しだけ物足りないのだが、完成度は今日の方が上だ。重厚かつ機能性にも優れたソウル・フィルの弦はほんとうに巧く、後方プルトの奏者も大きく体を動かして弾いている。管楽器やティンパニの僅かなズレも今日は殆どなく、中間楽章はいっそう芳醇に膨らむ。そして終楽章はインバルがこれでもかと叩き込む鞭にオケが臆せず応え、鋼のような響きのまま一気にコーダへ雪崩れ込む。コーダ直前では意味深にテンポを落とし、コーダ自体は快速、最後のトロンボーンを加えるとまた遅くなるのは毎度のインバル流。終結音が鳴り終わらないあたりから大喝采となった。

そして、今日はここでは終わらなかった。インバルは何回目かのカーテンコールで自ら曲名を告げ、ハンガリー舞曲第5番を大いに唸りながら振り出した。主部の粘りに粘ったフレージング、心憎く挿入されるポルタメントが実に効果的でたまらない。終結近くでは指揮棒をポトリと落としてしまい、構わず両手で指揮した。これで散会と思いきや、最後はインバルが「指揮者無しで!(without conductor!)」と告げてオケ単独でハンガリー舞曲の第1番。流石に弦の分厚い迫力はこのオケならでは、そこにインバル独特のダイナミックな音がひとりでに屹立するようであった。実に雄弁な演奏に客席も大興奮、ようやくお開き。
終演後楽屋口にインバルを訪ねてサインを頂戴した。ソウルで見る彼は相変わらず元気そうで、「日本にすぐ行けるのが楽しみ!」とにこやかだった。まだまだ辣腕衰えぬマエストロである。