2016/8/30
サントリー芸術財団サマーフェスティバル2016
サントリーホール国際作曲委嘱シリーズNo.39(監修:細川俊夫)
テーマ作曲家<カイヤ・サーリアホ> 管弦楽
@サントリーホール 大ホール

シベリウス:交響曲第7番
サーリアホ:トランス(変わりゆく)
(2015/世界初演/サントリーホール、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、hr交響楽団共同委嘱)

ゾーシャ・ディ・カストリ:系譜(2013/日本初演)
サーリアホ:オリオン(2006)

ハープ:グザヴィエ・ドゥ・メストレ
管弦楽:東京交響楽団
コンサートマスター:グレブ・ニキティン
指揮:エルネスト・マルティネス=イスキエルド
 
サントリーサマーフェスティバル、最終日の今日は細川俊夫氏監修・国際委嘱シリーズのオーケストラ・コンサート。今年のテーマ作曲家はカイヤ・サーリアホ(1952-, フィンランド)で、複数団体の委嘱によるハープ協奏曲「トランス」が初演の運びとなった。指揮者とオーケストラは昨年オペラシティのコンポージアムでやはりサーリアホのオペラ「遥かなる愛」を日本初演した組み合わせで、作曲家の語法の理解は申し分ないだろう。

一曲目はシベリウスの第7番。サーリアホはプログラムに「テンポとテクスチャーという点で、いくつかの驚嘆すべき瞬間を含んだ、力強い音楽ドラマ」という言葉を寄せているが、曲目解説に彼女の言葉を引用した時点で、続く初演作品への導入的な役割を感じる。そのこと自体を批判するつもりはないが、シベリウスの極北とも言えるこの「第7番」を前座的に扱う試みが果たして成功したのかと問われると、そうは言い難いだろう。東響の暖色系の弦は見事だし、管楽器もふっくらとそれに寄り添うのだが、どうしても続く作品への配分を考えた上での微温的な演奏という印象を拭えなかった。指揮者(棒を左手に持つ)はよく振っていたけれども。

2曲目は今回の初演作品であるサーリアホ「トランス」。今年1月に作曲家がパリで語った言葉がプログラムに載っているので、聴き手としてはそれを踏まえて曲に臨むことが出来た。ハープという撥弦楽器の繊細さを活かし、管弦楽が独奏をかき消すことがないようにトゥッティの響きは少なく、楽器群ごとにソロと向き合うようなテクスチャだ。シベリウスからの流れを継ぐ点としては、音楽の前提として、広義の意味での自然—具体的な箇所を挙げることは出来ないのだが―への崇敬が感じられることだろうか。そこから滔々と湧き出す泉のような音楽は、豊富な栄養素を含み我々の心へと静かに届く。第3楽章の形式などはやや拍子抜けの感もなくはなかったが、彼女の作品の持つ雰囲気はやはり今日の作曲家の中でも独特である。メストレの独奏、東響ともに静謐だった。

休憩を挟み、ニューヨーク在住のカナダ人作曲家で、コロンビア大学でも教鞭をとるゾーシャ・ディ・カストリの「系譜」日本初演。彼女の作品はサーリアホの推薦により今回のプログラムに組み入れられた。大管弦楽の広がりのある響きと民謡的なセクションが印象的で、微分音によるコラールも用いられる。記憶の中に記憶が重なっていき、次の世代へ「系譜」として受け継がれていくことを音楽的に表現したとのことで、確かにそう言われれば理解できるようなモティーフの用法もあったように思う。

そして最後に演奏されたのがサーリアホが書いた管弦楽作品の中で最大規模を持つ「オリオン」。「メメント・モリ(死ヲ憶ヘ)」「冬の空」「狩人」と題された全3部構成によるこの作品は、フィンランド的、地母神的なサーリアホ音楽の通奏低音を感じさせつつ、鳥の声のような管楽器とヴァイオリン・ソロの対話から、大オーケストラの最強音まで幅広いパレットで描かれている。表題はあくまで音楽の方向性を示す一つの手解きにすぎないが、とくに「冬の空」の永続的な響きは忘れ難い。彼女には珍しく快活な要素が強い「狩人」の最後ではサンダースティックという楽器も宙を舞う。

サーリアホ作品の良さをたっぷりと味わえた演奏会だった。マルティネス=イスキエルドは丁寧な棒、東響も空気感豊かな木管が特に「オリオン」で美しかった。シベリウスだけは他の交響詩(『エン・サガ』や『夜の騎行と日の出』など)が相応しいのではと思われたけれど。