2016/9/15
東京都交響楽団 第814回定期演奏会Aシリーズ
@東京文化会館 大ホール

グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番
~ソリスト・アンコール~
チャイコフスキー:四季 op.37bより 4月「松雪草」

バルトーク:管弦楽のための協奏曲

ピアノ:アンナ・ヴィニツカヤ
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉
指揮:エリアフ・インバル
 
C定期の「グレイト」が豪快に口火を切ったインバル/都響月間。第2弾はグリンカ、プロコフィエフ、バルトークというモダン寄りのプログラムだ。インバルも特設サイトで語っているように、三曲ともに「民謡」という共通キーワードがある。バルトークの「オケコン」に北アフリカの民謡が盛り込まれているとは知らなかった。プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番でソロを弾くアンナ・ヴィニツカヤとは既に同曲を共演済とのことで、役者は揃った。

一曲目のグリンカ「ルスランとリュドミラ」序曲は華麗なショウピースとして知られる名品だが、インバルの手にかかると厳しい構築を備えた作品へと変貌する。そこにいわゆる物語的な要素はなく、16型の弦楽器が冷徹無比・一糸乱れぬ進軍を聴かせるのみだ。優美な第2主題での極端な対比(2度目に現れると最弱音)には耳をそばだてざるを得ない。都響は過剰なほどに気合十分、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルの同曲を彷彿とさせる完璧な揃い具合であった。いきなりこの水準とは、驚愕。

続いてはプロコフィエフの「ピアノ協奏曲第2番」。前述した通り、既にこの曲で共演済みのインバルとヴィニツカヤは一体感抜群。既に功成り名遂げた指揮者に対し、一歩も譲らずテンポを上げて音楽の密度を高めてゆくヴィニツカヤは恐ろしいばかりの集中力だ。それに負けじと応戦するインバルも凄い(とはいえ、急速な2・4楽章では流石に手が追いつかない時もあったらしい)。80歳でこれだけ熾烈な棒を振れる指揮者は決して多くなかろう。第1楽章中程から後半に置かれたソロのカデンツァは1人でオーケストラを奏でるようだし、それに続く全管弦楽の咆哮(冒頭の意味深な木管の呟きが化け物と化す)は分厚くも均衡の取れたサウンド。後続楽章も三位一体の素晴らしさであった。ヴィニツカヤがアンコールに聴かせたのは一転してロマンが薫るチャイコフスキー「四季」の一曲。
ちなみに今月末にはマツーエフの独奏、パーヴォ/N響も同協奏曲を披露する。珍しい対決だ。

続いてはバルトークの名品「管弦楽のための協奏曲」。インバル/都響のバルトークは2013年12月の「青ひげ公の城」以来となる。舞台がオーケストラから滲み出すような凄みある響きが印象的で、インバルの精緻な読みとバルトークの好相性を印象付けたものだ。今回の「オケコン」も同様の印象で、針小棒大にならず楽譜を音化するだけで強力な磁場が発生するようだ。暗譜のインバルは各声部を明晰に押し出して対比を作り、かつ低弦の揺るぎない響きをベースとして全曲を設計した。それでいて響きが無機的にならず弾力性を保っているのは、このコンビならではの熟達の技であろう。インバルは全曲アタッカで振り、全曲の頂点を慟哭の第3楽章に置いた。弦に決死のダウンボウも出現するが、総体的な響きは醒めている。それでこそ続く第4楽章におけるショスタコーヴィチへの皮肉が際立つというものだ。フィナーレも最後まで鮮やかな運び、都響も冴えていた。

前川國男のモダニズム建築が今でも独特の存在感を誇る東京文化会館によく似合う、モダンで鋭く、しかし味わい深いプログラムと演奏の数々。インバルの手腕と都響の妙技に唸る一夜となった。