2016/9/28
大阪フィルハーモニー交響楽団 第502回定期演奏会
@フェスティバルホール

モーツァルト:交響曲第25番
マーラー:交響曲第5番

管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:田野倉雅秋
指揮:エリアフ・インバル

都響との3プログラムで変わらぬ健在ぶりを示したエリアフ・インバル。今回も都響来演前にソウル・フィルでブラームス「第2番」などを指揮しているように、アジア圏の新しいオーケストラとの出会いを続けている。そんな彼が今回新たに「発見した」オーケストラが、大阪フィルハーモニー交響楽団である。朝比奈隆のブルックナーについてかねてから興味を持っているインバルのこと、大フィルのことはきっと昔から知っているだろう。更に首席指揮者の井上道義氏は、グイド・カンテッリ指揮者コンクールの後輩格である(インバルが1963年、井上氏が1971年優勝)。井上氏はインバル/都響の演奏会に以前からよく来場していたし、きっと彼の希望もあって今回の初共演が実現したのだと思うが―何はともあれ、在京団体以外のインバル初客演は大フィルに決まった。

定期・それ以外の公演を問わず、大フィルは相当に久しぶりに聴く。前回は大植英次氏の指揮でやはりマーラー「第5番」、前半はモーツァルト「ハフナー」という、偶然にしてインバルがフランクフルト放送響とかつてよく聴かせた組み合わせであった。そして、今回のインバル/大フィルもモーツァルト&マーラー。何か奇妙な縁すら感じてしまう。また、定期公演の会場であるフェスティバルホールはおそらく初めて→改築前、親と一緒に朝比奈御大を聴いているらしい!!いやいや、未就学児連れてったらあきませんやん(笑)
フェスティバルタワー玄関口の豪奢なワイン色のカーペットは非日常へ誘い、ホールへと続く長大なエスカレーターもどこか神秘的な趣すらある。東京には無い、ユニークな雰囲気のコンサートホールだ。3階席正面の中央ブロック左寄りで聴いた限りでは、残響は上野の東京文化会館よりは多く、 ミューザ川崎よりは少ないといった印象だ。音の定位はくっきりと定まり、広大な空間を持つ縦方向によく飛んでくる。 
さて、演奏以外の話が長くなった。前半はモーツァルトの「交響曲第25番」、いわゆる小ト短調交響曲である(懲りずに余談だが、アラン・ギルバートが都響を7月に振った演奏会も全く同じモーツァルト『第25番』&マーラー『第5番』だった)。ホルンを4本使うというこの時代にしては意外な編成、緊密な構成美が光る曲で、インバルのシリアスな構築が活きると思われた。
結果としては、想像通りのインバルらしいモーツァルトの響きがある程度は聴けたものの、ホルンセクションのあまりの低調ぶりに愕然とした。この曲―とくに両端楽章―では高音が要求され難しいことは承知しているが、それにしてもプロとは思えぬ酷さである。終楽章ではホルンに旋律が現れるのだが、崩れ過ぎてまともに聴こえてこないほどだ。引き締まった弦五部から受け渡された木管群(特にオーボエ)はいい仕事をしていただけに、全体の印象を下げたホルンセクションには呆れるほか無い。第3楽章以降のリズムの引き締まりはブルックナーのスケルツォを想起させ、シリアスで曲に似つかわしい響きで奏された。演奏後のインバルは数度目かのカーテンコールで、後半に使うハープの弦をポロポロとかき鳴らして退場するなどお茶目。

後半は気を取り直してインバルの十八番中の十八番、マーラー「交響曲第5番」。編成は一気に拡大し、ホルンの首席は在京オケでもたまにお見かけする高橋氏に。彼なら安心である。
冒頭トランペットのソロが高らかに決まり、その後のトゥッティに決然とした意志が漲る。そう、この推進力とリズムの切れ味がインバルのマーラーなのである。そこに声部の対比の妙が加わり、響きの雄弁さがぐっと増したのは第2楽章再現部以降―ヴァイオリン群が大いに粘りながら第2主題を膨らませていく箇所である。ここに来て大フィルが本来持つであろう弦の魅力とインバルの歌が合致し、以降は柔軟な演奏が続いていった。楽曲の中間に位置する第3楽章では先述した高橋氏のホルンが豪快に決まった。瑕を恐れずにグイグイと攻めるホルンで素晴らしい。都響で同曲を振った時、第3楽章を終えると中座し、チューニングも行ったが、今回は指揮台の柵で休息を取るだけで舞台袖には戻らなかった(フェスの舞台が横に長いからか?)。いずれにせよ、結果的に先行楽章までのエネルギー感がアダージェット楽章でも保たれたのは事実である。都響では微細な音量変化を歌よりも優先したインバルだったが、当夜の演奏ではややその神経質さは薄れ気味、シンプルな味わいだ。そして、ホルンの呼び声が鳴ると第5楽章へ。弦のみの第4楽章で少し休めたのか、それ以前にも増して大フィルの管楽器は雄弁だ。ベルアップも鮮やかな角度で決まる(クラリネット見事!)。膨大な情報量を持つこの楽章、インバルは壮年期を思わせる獅子奮迅の指揮で大阪フィルを牽引した。フィニッシュと同時にすさまじい歓声が送られる。
インバルの要求は高く、都響でもそれを完璧に実現することは不可能なのであるが―今回初顔合わせとなる大フィル、至る所でほつれ、崩れ、ボロボロな演奏ではあった。しかし結果としてはインバルのマーラーを演奏しきった。その気概には心から拍手を贈りたい。冷静に振り返れば、前方プルトの前傾姿勢に対し後方の奏者は遅れ気味で、オンビートを要求する指揮との時間差から響きの濁りが生まれていた。また管楽器も、1番奏者、2番奏者以降のバランスに神経を使う余裕がないからか、野放図な咆哮によりインバルが浮き立たせようとしている旋律が埋もれてしまうこともしばしばあった(それによりかつての『大フィルのブルックナー』のような野太い迫力が生まれたことも確かだが)。その中で打音の引き締まったティンパニは素晴らしく響いた。
何はともあれ、オーケストラの全力疾走にインバルは概ね満足したらしく、終演後はコンサートマスターと首席チェロ奏者と手をとりあってカーテンコールに応えていた。1日目は金管の大事故など、お世辞にも名演とは言い難い水準だったようだが、終わりよければ全てよし、ということだろう。 なお、エクストンと思われる収録用マイクが立てられていたが、今回のライヴは出るだろうか。相当に修正しなければムリだろうが・・・。
楽屋でのインバルは至極ご機嫌だった。今回の日本滞在における4プログラムを振ったインバルは、初客演となる上海交響楽団(ブルックナー『第4番』ほか)へと向かう。次に彼が日本を訪れるのは、かつての手兵ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団との3月の公演である。こちらもまた楽しみだ。