2016/11/11
バッハ・コレギウム・ジャパン 第120回定期演奏会
@東京オペラシティコンサートホール・タケミツメモリアル

J. S. バッハ:ミサ曲 ロ短調

ソプラノ:朴 瑛実、ジョアン・ラン
アルト:ダミアン・ギヨン
テノール:櫻田亮
バス:ドミニク・ヴェルナー
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン
指揮:鈴木雅明
 
J.S.バッハ「ミサ曲ロ短調」、今年4月に大成功をもって終了したヨーロッパ・ツアーでも演奏された「ミサ曲ロ短調」がBCJの定期演奏会で取り上げられた。普段このジャンルに足繁く通うとは言いがたい自分であるが、「マタイ」「ヨハネ」そして「ミサ曲ロ短調」は別の話。体力・気力も要する作品群であるから、常にとはいかないけれども、BCJの実演とあらばなるべく気持ちを奮い立たせてホールへ赴かねば―そう考えてオペラシティへ。

まず聴き終えて頭をぐるぐると埋め尽くした言葉は、「人類の無形遺産」という一言だ。さまざまな近代・同時代音楽を経て、久々にこの畢生の大作に戻ってくると、構成美・合理性・その他あらゆる要素が簡潔な形式の中に凝縮されている事に震撼する。刺激を煽る音楽では一切ないが、どの瞬間も鮮烈だ。驚きと発見の連続で、どこまでが演奏の素晴らしさで、どこからが作品の素晴らしさなのか、またどの領域が指揮者の作り上げたものなのかは最早見当がつかない。それ程に彫琢されつくした音楽なのだ。自分のような矮小な人間は、ステージ上で繰り広げられる明晰な演奏に揺さぶられつつ、ただ泣くしかない。

普段はなるべく具体的な箇所を記すことを心掛けているが、今回はそれも敢えてやめたい。ごく一部の点のみメモ的に書いておく。冒頭の合唱の立ち上がりがやや不揃いで、「BCJでもこんなことがあるのか」と思ったが、以降は流石に闊達な鈴木さんらしい音楽が紡がれた(逆に言えば、どんなプロでも演奏会の第一音は至難ということだ)。
明晰さと熱量を保った演奏は尊く、無理せずに透明感ある美声を伸ばしてゆく卓越した独唱陣、また何種類もの子音を使い分ける合唱は本当に見事。独唱陣はいずれも合唱パートも並行して歌うことから、BCJ全体の水準がきわめて高いものだというのは自明だ(今回新たに若いメンバーも加わったそうである)。立奏して吹くトランペットも、ナチュラルであるからキズは多いのだけれど、リスクを取った姿勢が素晴らしいではないか。

この晩、オペラシティを埋め尽くした客席はほんとうに国際色豊かだった。こんなところからも、BCJが受ける国際的な評価・バッハ音楽の普遍的価値は滲み出す。