2017/1/3 垣内悠希/都響 チャイコフスキー、ボロディン、ラフマニノフ2017/1/10 小泉和裕/都響 ブルックナー

January 08, 2017

2017/1/8 坂入健司郎/東京ユヴェントス・フィル ブラームス、ヴォルフ、マーラー

2017/1/8
東京ユヴェントス・フィルハーモニー 第14回定期演奏会
@ミューザ川崎シンフォニーホール

ブラームス:アヴェ・マリア
ヴォルフ:妖精の歌

マーラー:交響曲第3番

ソプラノ:首藤玲奈
アルト:谷地畝晶子
女声合唱:オルフ祝祭合唱団(合唱指揮:谷本喜基)
児童合唱:中央区・プリエールジュニアコーラス(合唱指揮:古橋富士雄)
管弦楽:東京ユヴェントス・フィルハーモニー
コンサートマスター:毛利文香
指揮:坂入健司郎
 


今や一部クラシック・ファンの間では年始の風物詩となりつつある、坂入健司郎さん×東京ユヴェントス・フィルによる1月の定期演奏会。一昨年はここミューザでマーラー「復活」、昨年はすみだでブルックナー「第8番」と、驚嘆すべき演奏を繰り広げてきた彼らが、いよいよ最大規模の交響曲の1つであるマーラー「第3番」に挑んだ。

2年前の「復活」ではマーラー直系の指揮者・クレンペラーの秘曲「メリー・ワルツ」を前プロにして魅了した彼らのこと、今回もマーラーの前に小粋な作品を持ってきてくれた。ブラームス「アヴェ・マリア」とヴォルフ「妖精の歌」という2曲、両者ともマーラーとの歴史的系譜上に位置し、更に楽曲の雰囲気も後半の「第3番」の導入に相応しいものだ。ヴォルフでソプラノ独唱を歌われた首藤玲奈さんは一曲目からステージ上に着席し、アタッカで「妖精の歌」が始まると指揮者の隣へ。敬虔なブラームスの旋律がふわりと終結すると、少し自由さを得たヴォルフの可愛らしい旋律が流れ出す。ごく短い曲であるが、首藤さんの軽やかな歌と合唱の掛け合いは美しく響いた。

休憩を挟んでマーラー。今回の楽器配置は前半含めてやや異色で、コントラバス(11挺!)が舞台正面の後方に陣取り、その両翼を2対のティンパニをはじめとする打楽器群が固める。ホルンは下手(しもて)側、ヴァイオリンも左右に分かれるウィーン配置である。これによりベースラインの動きは手に取るように分かるようになり、音楽全体に揺るぎない骨格を与えることにも成功していたように思う。女声・児童合唱はP席で、長大な第1楽章が終わってから入場という納得の采配。
第1楽章冒頭のホルン—牧神(パン)の目覚め—から勇壮な響きで物語が始まり、落ち着いたテンポで進んで行く。打楽器群の最弱音から腹に響く最強音まで、音響バランスという点でもリハーサルで吟味されていることは明らかだ。最初に木管が出す第2主題に基づく楽章結尾の歓呼に向けて、決して音楽が暴発することなく息の長いクレッシェンドが築かれているのには驚いた。声楽陣が入り、舞台上で小休憩を挟んだ後に第2楽章へ。前楽章と対照的に小ぶりで愛らしいこの楽章に相応しい可憐な表現であり、弦のフレージングの妙も聴かれた。自作歌曲に基づく第3楽章は一転して素朴と深淵が入り乱れる楽曲。重要な役割を果たすポストホルンは4階から吹かれたが、タイミング的なズレも最小限でバランスが良い—このホールでやはりマーラー「第3番」を演奏したジョナサン・ノット/東響が合唱に遠近感を与えようとして若干失敗していたのを考えると、今回は成功といえる。疵も少なくなかったが、高音を当てに行く攻めの姿勢が音に充ち、また何より降り注ぐ陽光のように感じられた。応じるオケの帰営ラッパも見事。
第4楽章ではアルトの谷地畝晶子さんの深い美声に第一音から驚く。メゾ・ソプラノではなく太いアルトで、中低域の支えが印象的なオケもあいまって曲の永劫に引き込まれる。オーボエ・ソロのグリッサンドも大健闘。続く第5楽章は児童合唱が素晴らしく、合唱指揮を見ると若杉弘/都響のマーラー・ツィクルスなどのクレジットでもお名前を見かけた大御所・古橋不二雄さん。納得である。女声合唱も健闘していたが、やや高声部にナマの声が目立ったのは気になった。楽曲中盤、一瞬合唱とオケがズレそうになった箇所でも坂入さんは落ち着いて音楽を立て直す。冷静な棒だった。そしてアタッカで迎える第6楽章、これはやはり特筆すべき演奏だった。先述したブルックナー「第8番」のアダージョ楽章の呼吸の深さから想像するに難くなかったが、音楽を煽り立てずに巨大な大団円を導く手腕は坂入さん最大の武器ではないか。もちろん、この大曲を一丸となって正面突破してきた演奏者の感慨、最後の一瞬まで熱い音楽を紡ぎ続けようという意志から産み落とされた音でもある。この途方も無い到達感はプロオケでは聴かれない類のものであり、期せずしてかマーラーがこの曲に当初記した「愛が私に語ること」というプロットとも呼応するようであった。幾多の苦難を経て訪れる清澄な終結は、トランペットの見事なコラールに導かれ全セクションが一体となっていく。コーダではティンパニとコントラバスのD-Aの刻みが配置もあってよく聴こえてきたし、最後の第一音の絶妙な減衰も完璧であった。

全6楽章、坂入さんの卓越した造形感覚に共感するオーケストラの愛に充ちた演奏だった。勿論大曲・難曲ゆえの疵は少なくないが、それは些細なことに思える。それよりも主調の回帰など決め所でのハーモニーの美しさ、第1ヴァイオリンやチェロに代表される弦楽器の類稀な色彩感に瞠目した。すでに国際的なキャリアを歩み始めている毛利文香さんの色香は何物にも代え難い要素だし、山盛りの管楽器ソロも大健闘ではなかったか。
昨今ではオーケストラの技術向上で、マーラーの大曲でも流麗に通る演奏も増えた。そんな中にあって、今回の演奏は楽曲の無垢な姿とでもいうべきものだ―これまで写真などで見ていた絵画を現物で目の当たりにした時の感動とでも言おうか。長く心に残るであろうマーラー「第3番」演奏に、深く感謝する次第である。


mixiチェック
takupon68 at 22:30│Comments(0)TrackBack(0)公演評 

トラックバックURL

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
2017/1/3 垣内悠希/都響 チャイコフスキー、ボロディン、ラフマニノフ2017/1/10 小泉和裕/都響 ブルックナー