2017/1/8 坂入健司郎/東京ユヴェントス・フィル ブラームス、ヴォルフ、マーラー2017/1/13 川瀬賢太郎/都響 モーツァルト、ベートーヴェン

January 10, 2017

2017/1/10 小泉和裕/都響 ブルックナー

2017/1/10
東京都交響楽団 第823回定期演奏会Bシリーズ
@サントリーホール 大ホール

ブルックナー:交響曲第5番(ノヴァーク版)

管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:四方恭子
指揮:小泉和裕



2017年の在京オケ定期第一弾は、都響。昨年はちょうどこの時期の演奏会が都響第800回定期の節目にあたり、やはり小泉さんの指揮でR. シュトラウス「家庭交響曲」が演奏された(その際の感想はこちら)。期待が大きかっただけにかなり落胆したというのが偽らざる思いだったが、果たして今回はどうか。

3日の文化会館ニューイヤーを挟んだとはいえ、新年明けていきなりブルックナーの「交響曲第5番」一本勝負というのはオケの楽員の方々にとってかなり負担のように思えるが、一気に正月ボケが吹き飛ぶという要素もあろうか。事実、指揮者・オケ双方とも気合の入った演奏ではあった。
第1楽章冒頭の低弦のピッツィカートからこのオケらしいマットな質感で、深遠な曲の世界に聴くものを誘う。続いて立ち昇るオケのトゥッティはストレートな響きで、膨らみや伸びというよりは鋭く内に凝縮した音だ。こういった音の広がりや金管のフレーズの取り方などは決定的に欧米系のオケとは違った点で、体格の差などにも起因しよう。良い悪いの問題ではなくお国柄とでもいうべきもの。
ただ、この日の都響は各セクション単位ではまったく悪くないプレイをしているのに、オケが一体となって音楽を生み出すという一体感が決定的に欠けていたように思える。普段チームプレイの極致のような音を聴かせるオケが、一体どうしたことだろう。多くの奏者が防府音楽祭で東京を離れていて、エキストラが多かったためか?(エキストラの多少と演奏のクォリティの相互関係には、自分は若干懐疑的なのだが・・・)例えば、金管は終始国内オケの水準を超えた安定した吹奏と立体感で、1番トロンボーンとテューバに読響の方を配したことによる音色の統一性なども申し分なかった。ホルンも最近のこのオケとしては十全に近い出来。木管はオーボエのトップの方が不調のようで心配だったが。弦も前述した低弦はじめしなやかな響きで、緩徐楽章ではコンマス四方さんの細かな気配りも感じられた。しかし、オケとしては音楽が乖離していたように思えたのだ―こうなると、指揮者の問題なのか。小泉さんのブルックナーは以前都響で振った「第1番」「第2番」同様に停滞とは無縁、淡々とした運びが特徴的だ。初期交響曲で静かな凄みに繋がった彼の実直さが、中期の「第5番」ではスケールを狭めることになったとすら思える。指揮を見ていると、第4楽章の二重フーガで大きく2つになった以外は殆ど4つ振りだったが、聴感上は窮屈さの原因になっていたかもしれない。緩徐楽章は都響の弦が味わい深い響きを出しているが、音楽はひたすらに進む。

とはいえ、ブルックナーの「第5番」という、彼の交響曲の中でも異色の位置を占める作品の魅力は感じられた。第4楽章における先行楽章の主題提示・二重フーガなど、どう考えてもベートーヴェン「第9番」へのオマージュであり、その厳格な構築性にはブルックナーの決然たる意志も宿っている。それだけに、一層大きな伽藍を聴きたかったというのが正直なところだ。小泉さんは終演後熱心な聴衆に呼び戻されていたが、自分は賛同できなかった。3月には手兵・名フィルとの「第8番」を現地で聴くことにしているが、先入観を排して耳を傾けたいと思う。

mixiチェック
takupon68 at 22:00│Comments(2)TrackBack(0)公演評 

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by うっちゃん@おじさん   January 11, 2017 11:14
Twitterでは批判が出てましたが、私はじゅうぶん合格だと思います。
こう言ってはなんですが、小泉さんのブルックナーは「超大器晩成型」と思われます。
朝比奈隆の「一日でも多く舞台に立て」を実践していけば、長生きすればあんな感じの「大風呂敷を広げまくった」ブルックナーになると思います。

昨日の感じからすると、5番は少々「まだ早い」かなと思います。
初期の交響曲向きの年齢と熟成度だと思われます。
ただ、この数公演聞いてきて小泉さんは「大化け」していると思います。
20数年前の都響との演奏会の記憶を引っ張りだしても、あの頃より音に凄みが出てきているのはたしかです。
これこそ「年齢と経験」が全てを解決してくれそうな気がします。
だんだん思ったように棒が振れなくなってきて、いよいよ渋みと凄みを増す。
晩年のマタチッチや朝比奈御大のように・・・。
まさにこれからが正念場だと思います。

正直、名フィルとのブル8は行くべきかどうか迷ってます。
ただ、都響とのコンビによるブルックナーは今後は必見だと思います。
手兵の都響とのブルックナーは、進化の過程を見るのには(歴史を目撃するのには)最大のチャンスではないか、そんな風に考えた演奏会でした。
2. Posted by 平岡 拓也   January 11, 2017 11:30
うっちゃんさん、いつもありがとうございます。

朝比奈・ヴァント・チェリビダッケ世代ではない自分としては、最近本当に満足するブルックナー演奏というのは少ないです。(そもそも、上述した三巨匠がご存命の時代も様々な意見があったと伺ってますが・・・)それこそ、坂入さんやハイティンクあたりでしか心を揺さぶられる体験というのはしておりません。パーヴォの5番など、昨日まで聴いていたことをすっかり忘れていたほどです(苦笑)小泉さんはおっしゃる通り、初期交響曲向きの方かと思っています。5番は合わないかな、と思っていたら予想通りでした。難しいですね。
また、小泉さんの深化は自分も感じているところです。どういう円熟をこれから迎えられるのか分かりませんが、ブルックナーに限らず折に触れて拝聴したいと思います。

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
2017/1/8 坂入健司郎/東京ユヴェントス・フィル ブラームス、ヴォルフ、マーラー2017/1/13 川瀬賢太郎/都響 モーツァルト、ベートーヴェン