2017/1/20
日本フィルハーモニー交響楽団 第687回定期演奏会
@サントリーホール 大ホール

ブルックナー:交響曲第8番(ノヴァーク版)

管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:扇谷泰朋
指揮:ピエタリ・インキネン
 
日フィルにおけるインキネン体制の実質的な始動というべき、東京定期第一弾。昨年9月の就任披露はヴァーグナーの抜粋で、今回がブルックナー「第8番」。今後もブラームス・ツィクルスやリストなど独墺系の作品が並ぶ。日本人にとって最も馴染み深いドイツ音楽でオケのレヴェルアップを図るという王道路線だが、果たしてその船出はどうか。

結論から書くと、実に聴き応えのある見事なブルックナー「第8番」だった。昨今ノヴァーク版だと70分台が多いこの曲で、インキネンは80分超えを叩き出す。数字だけ見ると「遅い」という印象なのだが、聴感上はとても自然な音楽の運びだ。結果として立ち上がる音像は、神との対話を思わせる峻厳さよりは自然の逍遥とでも言うべき大らかなものだ。この辺り、汎神論的なシベリウスの音楽とともに呼吸してきたインキネンならではの音楽観であると思うし、アニミズムが浸透した日本人にも皮膚感覚として理解し易いものだと思われる。

具体的には、響きの角は極力削がれて円い。第1楽章第1主題から付点に力みがなく、穏やかな立ち上がりだ。かといって細部が滲んでいるわけでもなく、造形は極めて明確である。声部の響かせ方含め、この辺りは指揮者のバランス感覚の顕れだと思う。部分的なカタルシスでは円柱形の響きがぐいと膨らむようなイメージか。とにかく構えが大きい。また、インキネンが優れたヴァイオリン奏者であることも勝因だと考えられる。彼の指揮の多くは弦五部に向けられ、丹念・精緻に全曲を根気よく導いていく。ティーレマンのどじょう掬い振りに似た動きもあるのだが、フレーズのデフォルメ・意表をつくテンポ変化で音楽の圧をやや強引に高める彼に比べると、インキネンはずっと穏健だ。楽章内の各主題のテンポは聴感上同じなのに平坦にならないのは、フレージングをかなり細かく、そして合理的に作り込んでいるからだ。音量変化もごく一般的だから、相当にフレーズの綾が巧みという結論になる。ヴァイオリン群の弓速や響きの厚みの変化で聴かせた第3楽章はその最たるもので、敢えて「痩せさせる」技にも驚いた。

日フィルは見事な演奏で、1日目故の細かな疵はあったがインキネンの意図に誠実に寄り添っていた。ヴァイオリンの対向配置にはまだ慣れが必要だと思われるが、弦の大健闘には本当に驚いた。指揮者があまり方向性を示さない木管群が音楽と乖離しがちな点、最後にトロンボーンはじめ若干の奏者がインキネンの指揮とズレ、終結の三音が締まらない結果になったのは残念だったが、ドイツ音楽で印象が強いとは言えない日フィルから「新たな」音像を引き出して可能性を拓いたインキネンには大喝采を贈った。ヴァーグナー作品では更にオケの体力が求められようが、大いに期待したい。快演だった。