2018/1/10
東京都交響楽団 第846回定期演奏会Bシリーズ
@サントリーホール 大ホール

R. シュトラウス:組曲「町人貴族」
ツェムリンスキー:交響詩「人魚姫」

管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉
指揮:大野和士

都響の新年1回目の定期は、音楽監督の大野和士が指揮。先日聴いた読響のカンブルランはシュトラウス一家の作品とフランス物を組み合わせたニューイヤーの趣だったが、こちらは新春から20世紀初頭のウィーンへ想いを馳せる直球路線だ。無論、個性の違いなのでどちらが良いという問題ではない。

前半はリヒャルト・シュトラウスで、モリエール劇への付随音楽より編まれた「町人貴族」組曲。知名度の割になかなか実演に接する機会がないが、なるほど生で聴いてその理由が分かったように思う。小編成ゆえに通常のオケ以上に各セクションへの負担が大きく、些細な瑕も露になってしまう。今回の演奏は、ウィットに富んだ忙しない音楽の会話—と言うには些か生真面目であった(直前に、ネイティヴの語感濃厚なムーティ/WPhのライヴ盤を聴いていたために余計そう感じられたのかもしれない)。木管―特にオーボエ―は随所で伸びやかな歌を発揮していたが、金管は若干厳しかった(第3曲「剣術の先生」等)し、弦も終始硬い表情。まあ、元々ウィーン風の演奏を期待しているわけではないのだけど。終曲の自作・他作問わない引用祭りは茶目っ気充分で、続く「料理人の踊り」は待ってましたとばかりの賑やかさで曲を結んだ。

後半のツェムリンスキー「人魚姫」は前半と対照的で、大編成がステージを埋める。一目見て思ったのは、客演奏者の多さだ。どうやら田中雅弘氏(都響首席チェロ奏者)が音楽監督を務める防府音楽祭の最終公演が1/8なので、それに対応したということだろう(そう言えば昨年1回目のブルックナー第5番もそうだった)。別に客演が多いから駄目、ということではなく、寧ろこの日はとても良い方向へ作用した。ホルン6人のうち下4人、3番トランペット、トロンボーントップ、テューバ、フルート...他にもあるが、総じて豪華なエキストラの采配で、合奏の高精度に結実していたことは間違いない。特にホルンセクションで殆ど不満を感じずにこのオーケストラを聴けたのは久しぶりだ。そして大野和士の指揮はいつになく雄弁を極める。昨年聴いた上岡/新日本フィルで指揮者は暗譜だったが、この日の大野も暗譜で迷い無くオケを導いた。仄暗い海底の描写ではこのオケの磐石の低弦がものを言い、その対比としてコンマスソロによる儚い人魚姫の動機が現れる。特に印象深いというか、身悶えするようなリアルな感覚を伴って伝わってきたのは第2楽章。姫が人間へと転じる2楽章のめくるめく展開と、その中にあって全合奏により念押しされる「不滅の魂」の動機の何と荘厳だったことか。第3楽章ではそれまでの動機が渾然と現れ、鋭い弦の下降と共に人魚姫は海の泡と消える。その激烈な動きと、その後の穏やかな終結への導きも実に素晴らしかった。この日の大野/都響は、物語の進行を誘う巧緻な和声の変化(というよりそれら二つの要素の合致)が常以上に繊細だったように思う。前半はともかく、後半の「人魚姫」は文句無しの名演だった。同じ演奏会にて初演されたシェーンベルク「ペレアスとメリザンド」の演奏も見事だったことも思えば、指揮者大野和士の本領はやはりこの時代なのだろうか。