2018/1/13
東京佼成ウインドオーケストラ 第137回定期演奏会
@東京芸術劇場 コンサートホール

チャイコフスキー(大橋晃一編曲):スラヴ行進曲
ナバッロ:オーボエ協奏曲「レガシー」

ビゼー(大橋晃一編曲):歌劇「カルメン」より 第1組曲、第2組曲
~アンコール~
ビゼー(大橋晃一編曲):劇付随音楽「アルルの女」第2組曲より ファランドール

オーボエ:宮村和宏
吹奏楽:東京佼成ウインドオーケストラ
コンサートマスター:田中靖人
指揮:ユベール・スダーン

東京佼成ウインドの定期公演に行った。今回の話題はなんといっても、東響のシェフを長らく務めた名匠ユベール・スダーンの初登場だ。プログラム・ノート(柴田克彦氏)によると、マエストロ・スダーンの父はオランダのブラスバンドの指揮者で、少年スダーンもトランペットやホルンを吹いたという。「私にとって吹奏楽は音楽のホームタウン」という頼もしい言葉をマエストロは寄せているが、まさにその言葉に偽りの無い、素晴らしい演奏が繰り広げられた。

コンサートの一曲目はチャイコフスキー(大橋晃一編曲)「スラヴ行進曲」。仄暗い音色で始まり、丁寧にハーモニーが積み上げられてゆく。弦の重厚感は無いが、管の長所を前面に出した編曲により新たな魅力を獲得した結果では無かろうか。(例えば、『1812年』にも出てくる『神よツァーリを護り給え』などは原曲だと今回ほどはっきりと聴こえてこないように思う)スダーンの音楽づくりは厳格で、各主題毎の色付けが鮮やかだ。直截なクライマックスも彼ならでは。

続いて、スペインの現代作曲家オスカル・ナバッロのオーボエ協奏曲「レガシー」。原曲はオーケストラだが、作曲家自身により吹奏楽へ編曲されている。スペインの吹奏楽に顕著なようだが、編成にチェロが用いられていた(今回は2本)。この違いは大きく、コントラバスと合わさってベースラインを明瞭にし、同時にバンド中で浮きがちなサクソルン属とのバランスも向上する。なお、初演でソロを吹いたのはバイエルン放送響首席のラモン・オルテガ・ケロだ。今回の演奏会では、副コンマスの宮村和宏がその重責を担った。彼の独奏が実に素晴らしく、猛烈に速いパッセージにおける超絶技巧、異国情緒漂う音色、あらゆる点で引き出しの多さを感じさせた。支えるバンドが担う役割も大規模だ。各ソロも秀逸だったし、特に感銘を受けたのは緩やかな第2部における典雅な響き、また結尾の超弱音だ。クラリネット群の音色感は忘れられない。第3部はヒナステラ「エスタンシア」を思わせるバンドの疾走とオーボエの熾烈な掛け合いが続き、終盤には更に高速なユニゾン(クラリネット+フルート、独奏)に続き、下から上まで広い音域を駆け巡って痛快に終わる。スダーンの手堅さ以上のサポートあっての演奏だろうが、生でこの水準を聴けたことに感謝するばかりだ。
なお佼成ウインドの4月定期では、ナバッロの師であるフェルレル・フェルランの大作「キリストの受難」も取り上げられる。今回のナバッロ作品との接続という意味では申し分ないではないか。

後半はビゼー「カルメン」の第1組曲&第2組曲。これもチャイコフスキーと同じく大橋編曲による。組曲とは言うものの、ホセの「花の歌」の挿入があり、曲順も自由に動かされているので実質上の抜粋演奏だ。編曲の見事さはここでも印象的で、もっとも鮮やかに感じられたのは第1幕の前奏曲後半、原曲では悲壮な弦トレモロで奏でられる箇所がホルンのゲシュトプフトに移行されていたことには膝を打った。これにサックスのトリルが合わさることで、きちんとトレモロが再現された(ように聴こえた)。また、随所に盛り込まれる名アリアの数々は名手によるソロに置き換えられた。これがまた鮮やかで、歌の細やかな抑揚まで研究されていることが伝わった。音域の采配(メゾ→フリューゲルホルン、バリトン→トロンボーン等)も納得いくもの。その他にも、ナバッロで名演を聴かせた宮村氏が後半でも「名唱」を聴かせ、その他のメンバーも列挙すればキリがない充実ぶり。スダーンは前半に続き指揮台を使わず体全体を使って振り、バンドから流麗な歌を次々と引き出した。指揮台を置かないメリットは大きかったのではないか。

これまで東響筆頭に在京オケで聴いてきたスダーンだが、佼成との好相性は明らか。3曲それぞれで作曲家毎の個性を描き分け、バンドの鳴らし方にも抜群のバランス感覚を保つ。東響を勇退し円熟を深めるスダーンと、名手揃いの佼成ウインドの実に幸福な邂逅となった。喝采に応えたアンコールは同じビゼーの「ファランドール」。決して騒がず煽らず、格調高く音楽を昂めていくその手腕には、彼の師フルネ(言うまでもなく、生では聴けなかったのだが)譲りの薫りすら感じられた。引く手数多の名匠だが、是非とも次期首席客演指揮者に招べないだろうか。