たくさん聴かな、あかんやん。

都内在住私大生。自分の心に正直に書きます。

July 2015

2015/7/11
東京交響楽団 第87回東京オペラシティシリーズ
@東京オペラシティ・コンサートホール

細川俊夫:循環する海
ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
~ソリスト・アンコール~
ドビュッシ-:ベルガマスク組曲より 第3曲:月の光

ドビュッシー:管弦楽のための映像

ピアノ:萩原麻未
管弦楽:東京交響楽団
コンサートマスター:グレブ・ニキティン
指揮:ジョナサン・ノット

快進撃のノット/東響、今回はラヴェル、ドビュッシーといったフランス近代音楽を細川作品と組み合わせる見事なプログラミング。歴史的な系統による関連性はもちろんのこと、音楽そのものの親和性(後述する)を聴き手に印象付ける素晴らしさ。いつもノット指揮の演奏会には新鮮な驚きがあり、次もそれを求めたくなるのだ。

細川作品は最弱音の弦の持続的な響きから始まり、刻一刻と表情を変える海が広いレンジで描かれる。大編成のオーケストラは時に粗野寸前の激しさ、またある時は澄んだ水のような静謐さを見せる。これらの表現を率直に導き出したノットの手腕とオケの誠実さにより、作品の魅力が一層輝いたのは疑うところのない事実。細川作品特有の美意識は東洋的というよりは普遍性を感じさせるが、その丁寧な筆致こそは日本的かもしれない。彼は最も好きな現代作曲家の一人。
 
続く「左手」は冒頭の低弦から思いの外明晰で、声部がはっきり聴き取れる。5月に聴いたテミルカーノフ/読響は敢えてオケをボカすことにより魑魅魍魎が潜む妖しさを醸していたが、対照的な解釈と言える。ノットの音楽作りは健康的だったが、ジャジーなフレーズへの変わり目が鮮やかに決まり、とにかくクール。現代音楽を頻繁に振る指揮者ならではのラヴェルだ。萩原麻未は作品に没入し、オケ単独の箇所でも終始リズムを刻んでいる。ミスタッチは少なくなかったのだが、それより音色への拘りが素晴らしい。月の光も彼女らしい柔らかな光を放つ演奏だった。

メイン・プロは「海」かと思いきやなかなか演奏されない「映像」。ラヴェルでの響きでノットとフランス音楽の相性の好さは確信したが、やはり見事な演奏だった。オペラシティの抜けの良い音響・オケの鮮やかな反応も味方し、日本のオケとは思えぬようなパリッとしたドビュッシー。飛沫を飛ばすような爽やかさの中に、「イベリア」で聴かれたような妖しさと熱気をも内包している。ただ音響的に夏っぽいだけならそれほど感銘は受けなかっただろうが、ノットの見識の深さとオケの献身がピタリと合致した快演に魅了された。

夏本番を迎えるに相応しい熱気の中で、一種の清涼剤的な快感をもたらしつつ余韻も残すノットの心憎いプログラム。次回の定期演奏会は対照的に骨太の選曲が並ぶが、こちらも楽しみでならない。

2015/7/10
新日本フィルハーモニー交響楽団 第545回定期演奏会
@すみだトリフォニーホール

マーラー:交響曲第2番「復活」

ソプラノ:ドロテア・レッシュマン
アルト:クリスティアーネ・ストーティン
合唱:栗友会合唱団(合唱指揮:栗山文昭)
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙
指揮:ダニエル・ハーディング

ハーディング×新日フィルのマーラー・シリーズも気が付けば殆ど終わりとなっている。就任以後シーズンに一、二曲ずつ取り上げていった結果、今回の2番と来シーズン末の8番のみを残すところとなった。3番は元々プログラミングされていないが、ハーディングの契約が切れた後にいつかやるのだろうか。
今回はシーズン・フィナーレを飾る演奏会とあってか、独唱陣は例を見ない豪華さだ。レッシュマン、ストーティンはヨーロッパの超一流オケとしばしばマーラーを共演しており、CDも出ている。「復活」の独唱として日本で聴けるのは相当に贅沢なこと。
とまあ要するに、相当気合が入った企画内容であったことは間違いない。聴く側としても、ハーディングの「復活」とあれば期待するなという方が無理というもの。

実際の演奏は、何とも言えない複雑な結果に終わった。
まずオケの演奏には完全に落胆させられた。新日フィルが嫌いだから言うのではない。自分の中でこのオケは確かなアンサンブルと質実な音色を持つ団体だったのだ。 少なくともアルミンク治世の時までは、派手ではないものの洗練され、内容的に充実した演奏をたくさん聴かせてもらったことは間違いない。
そのアンサンブルが、今や大変なことになっている。「一日目だから公開GP状態」という見方もあるが、同じ金・土に定期を開催する日フィルはいま両日とも頗る充実しているではないか。日フィルとて昔は金曜に粗さが聴かれることがあったが、ラザレフとの共同作業の中でぐんぐんと音楽的なレヴェルが向上している。
一方今回の新日フィルはあまりにひどい。マーラー「復活」は大曲であり、多少の瑕をあげつらうのは愚かなことなのだが、この演奏はそういうレヴェルの問題ではないのだ。ハーディングの指揮への対応がぎこちなすぎるのも大いに気になったが、更に根本的な問題が今回は多すぎた。第1楽章始まってすぐ、低弦の同じプルト内で音楽がずれ始める。それはまだよいとしても、第2楽章の中間部に入ったかと思えば弦5部が全くばらばらの動きとなり、完全に音楽が空中分解する。コンマスが何とか修正しようとするが持ち直せず、ハーディングが拍を強く打ち出し始めるがそれでもなかなか戻らない。相当に長い時間何を演奏しているのか分からなかった。こんな事故が起こるのは、ひとえにオケの根幹が揺らいでいるからに他ならない。バンダは全員エキストラだから仕方がないとしても、トランペット群の雑なアンサンブルも問題あり。

こういう状況であったから、ハーディングのやりたかった「復活」がどこまで達成されたかは甚だ疑問なのだが、少なくとも彼が目指していたであろう音楽の方向性は素晴らしかった。(彼クラスの指揮者になると、オケの違いによって驚くほど指揮や音楽作りを変えられるので、より強力なオケを振れば更に大胆さが出てくる可能性は付しておく)
古典的といっていいほどに脂肪分が少ないマーラー像で、 粗野の一歩手前の激烈さを常に有しながら全体の流れのスムースさは適度に保っている。インバルのような完璧なバランスにはだいぶ遠いが、これまでハーディングの演奏の多くから受けた「細部に固執し過ぎる」という印象はあまりなかった。合唱の扱いも呼吸が深く、終楽章のア・カペラから終結部までの流れの良さは特筆すべきものだった。
声楽陣は当たり前のように素晴らしく、ストーティンの深々とした「原光」、出番は少ないながらも切々とした美声のレッシュマンを生で聴けたことにただ感謝あるのみ。先述した栗友会の合唱はよほどオケより柔軟性があり、拍をはっきり打っていくスタイルではない草書体の指揮に対して厚みのある歌唱で応えていた。馬力はプロの合唱団に負けるものの、アンサンブルの美しさは全く劣っていないどころか部分的に上回っている。

この翌日の土曜日マチネはほぼ修正が行き届き、感銘深い演奏になったようだが―ひとりの聴衆としては馬鹿にされたような不快さしか受けなかった。このオケの抱えている問題が上岡さんとの共同作業でどれ程まで解決されるのか、気がかりである。 

2015/7/5
東京交響楽団 第109回名曲全集
@ミューザ川崎シンフォニーホール

ボロディン:歌劇「イーゴリ公」より ポロヴェッツ人の踊り
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
~ソリスト・アンコール~
クリッヒェル:ララバイ(自作)
シベリウス:交響曲第2番

ピアノ:アレクサンダー・クリッヒェル
管弦楽:東京交響楽団
コンサートマスター:水谷晃
指揮:飯守泰次郎

イーモリ公のイーゴリ公はザラリとした素朴な味わいが魅力的、続くラフコン2番はクリッヒェルの独奏が意外に濃い味、濃厚同士でガップリ四つに組んだ聴き応えある演奏に。若き俊英と老匠が頻繁にアイコンタクトを交わしながら献身的に音楽を紡ぐ様子は視覚的にも感慨深かった。アンコールのララバイは若干イージーリスニング風ながら好いデザートに。
 後半シベリウスも大浪漫的濃厚アプローチを覚悟していたら案外バランスが整った好演に。飯守棒にオケがアジャストされてきた?東響は水谷さんが渾身のリードで全体の拍節感をサポート、細部が乱れても骨格が最後まで保たれたのはオケの底力。飯守さん、2楽章の弦や終楽章大詰めでは持ち前のヒューマンな温かさを存分に広げた。

2015/7/4
土曜ソワレシリーズ《女神(ミューズ)との出逢い》 第251回
三浦友理枝 ラヴェル・ピアノ作品全曲演奏(第一夜)
@フィリアホール

ラヴェル:メヌエット
ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」
ラヴェル:ソナチネ
~休憩~
ラヴェル:水の戯れ
ラヴェル:夜のガスパール
ラヴェル:ラ・ヴァルス
~アンコール~
ラヴェル:フォーレの名による子守歌

ピアノ:三浦友理枝

ラヴェルのピアノ曲全曲演奏第1弾は全曲暗譜、曲目解説も手掛けて臨んだ才媛の意気込みが十分伝わる好企画&好演だった。
メヌエットから「高雅にして...」はアタッカで緩急を印象付け、マ・メール・ロワでは清楚な語り口の中に温かな情感が滲んでくる素晴らしさ。
水の戯れから水の精(「夜のガスパール」第1曲)に繋がり、魔性的なスカルボを経て狂乱のラ・ヴァルスへと達する見事な構成。どんなに激しても全音域で常に響きのクリアさが保たれ、音色は刻一刻と鮮やかに移ろい行く。実演でこれほど高水準なラヴェルが聴けるとは!

2015/7/4
ワグネル・ソサィエティー・OBオーケストラ 第78回定期演奏会
@すみだトリフォニーホール

ニールセン:狂詩曲風序曲「フェロー諸島への幻想旅行」
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
~ソリスト・アンコール~
J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番より ラルゴ
シベリウス:交響曲第2番

ヴァイオリン:大江馨
管弦楽:ワグネル・ソサィエティー・OBオーケストラ
コンサートマスター:成瀬正啓
指揮:新田ユリ

ニールセン、シベリウス2番共にオケに問題が多すぎ、曲を味わう段階に至らず。率直に言って大変残念。複数のセクション内で微妙にピッチが合っていないので、管弦楽になるとそれが大きなズレになって全体の響きの混濁として伝わってしまう。Hrはアマオケと言えど看過できぬ酷さ。新田さんの悠然とした構築は好感が持てた。
中プロのシベリウスVn協奏曲のソロは気鋭・大江馨さん。持ち前の艶やかな美音を駆使しつつ、それに頼りすぎず果敢に表現する攻めの姿勢は天晴れ。静謐さ・素朴さを第一に受け取ることの多い名曲から新鮮な響きを引き出していた。完璧さには些か欠けるものの、これ程の表現意欲を有した演奏は凡百のヴァイオリニストを上回ると言っていい。手堅い伴奏もプラスに働いたと思われる。

 

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