たくさん聴かな、あかんやん。

都内在住私大生。自分の心に正直に書きます。

December 2015

2015/12/28
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第九特別演奏会
@東京文化会館

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

ソプラノ:横山恵子

メゾ・ソプラノ:池田香織
テノール:望月哲也
バリトン:小森輝彦
合唱:東京シティ・フィル・コーア(合唱指揮:藤丸崇浩)
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
コンサートマスター:戸澤哲夫
指揮:飯守泰次郎

今年最後の「第9」は、昨年に続きシティ・フィルの「第9」。指揮はやはり昨年と同じく飯守カペルマイスター。
昨年はやや引いた席で聴いたが、今回は逆に1階10列とオーケストラがちょうど視界に収まるあたりの席で聴いた。席の違いを考慮して考えると、ほぼ同じような印象を受けた。 

テンポの伸縮、強烈なアゴーギクはいわゆる「飯守節」。愚直なまでに自らの路線を貫くマエストロは健在だが、傍目から見る限りその棒は曖昧さを増してきたように思える。彼の意図を十全に把握し、音化できるのは流石シティ・フィルといったところだろう。他のオーケストラと飯守氏の共演もよいのだが、未だにこの楽団が彼のファミリーのように思える。
第1楽章結尾近くのティンパニの乾いた強打、それに応じて波状攻撃を繰り出すオーケストラはすさまじく、飯守さんの渾身の指揮もあって壮絶なカタストロフィを作り出していた。先述した「飯守節」は節度あるもので、楽曲の骨格は尊重した上で弦楽器を中心に濃密な揺らしをかける。飯守さんが保ち続けるこのバランス感覚は重要で、
コテコテの演歌調で楽曲を塗りつぶしてしまう某有名指揮者―誰とは言わないが―とは一線を画している。最後のプレスティッシモはリミッターを解除して、全軍決死の突撃といった様相だ。 
シティ・フィルは戸澤コンマスによる指揮の補完もあって重量感ある演奏を聴かせた。
ホルンやトランペット群は時折お粗末な音で、更なる安定と音色感の充実は急務といえる。藤丸さんが指導するシティ・フィル・コーアはアマチュアながら大健闘で、時折同声部内での乖離(エキストラの存在ゆえ?)も聴かれたがオーケストラと十分に渡り合った。先日の神奈川フィル合唱団とは大違いだ。
ソリスト陣は悪くなかったが、バリトンの小森さんに神奈川フィルから引き続いての強い違和感。第一声の音程がどうしても気になるのだが、確信犯的なものだろうか? テノール望月さんは典型的なヘルデンの歌唱(あまり強靭ではないが)で、ドイツ語の語感への凝りが素晴らしい。「第9」では陰に隠れがちなメゾだが、池田さんは今回もっとも見事で、その風格は4重唱の中でも一際輝いていた。ソプラノの横山さんは高音部の鋭さは気になるものの文句なし。

全体的に、飯守ファミリーによる飯守劇場という感。疾風怒濤の演奏が続いた今年の「第9」だったが、最後にオーソドックスな演奏で締めくくることができた。 

2015/12/26
東京都交響楽団 都響スペシャル「第九」
@サントリーホール

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

ソプラノ:安藤赴美子
アルト:中島郁子
テノール:大槻孝志
バリトン:甲斐栄次郎
合唱:二期会合唱団(合唱指揮:藤本淳也)
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉
指揮:エリアフ・インバル

インバル/都響の「第9」3日目、最終日のサントリーホール公演を聴いた。

初日はやや慎重に全体を作り上げ、徐々に調子を上げて最終日にピークを持っていく。これが複数公演におけるインバルの流儀だと思うが、今回もその流れに沿ったと考えてよかろう。3日それぞれ演奏が異なり、味があったが、集大成として持てるすべてを出し切った解放感、ホールを包む圧倒的な昂揚はサントリー公演に軍配が上がる。

弦楽器にはしばしば濃厚でユダヤ的なヴィブラートが付加され、第1オーボエにベルアップ気味の指示をするなど、「第9」を通して現代を見つめるが如きインバルのベートーヴェン像。厳しいリハーサル、3日の本番での部分的な修正を経て、最後にはもっとも理想的な形で彼の音楽が鳴り響いたのではなかろうか。極小単位のフレーズの積み重ねがオーケストラに染み込み、結果として緻密かつ豪快なサウンドが生まれたのだ。ここまで来れば、インバルが大振りせずともオケは轟々とうねり、強靭な響きを奏でる。

ステージに近い客席からインバルとオーケストラを見ていると、想像以上に高度なやりとりが無言のうちに交わされている。コンマスの矢部さんと指揮者、そして各弦楽器のトップ奏者、管楽器奏者―彼の指揮は即興的に変化することも多々あるので、油断している暇はないのだろう。舞台全体にピンと張った、されど独裁的ではない緊張感が漂っている。
第1楽章の厳粛な響き、容赦のないコーダ(ブルックナー9番の同箇所をいやでも連想させる!)は先の公演の記事で書いたとおりだが、第2楽章の執拗に叩き込まれる弦のペザンテはよりアグレッシヴになっていた。軽快なトリオとの対比も鮮やかで、トリオ冒頭で木管群が高速で吹くパッセージが弦楽器に移るとインバルは嬉々として旋律を歌いながら弾むように振っていた。この大胆さである。

休止を挟んで緩徐楽章へ。インバルはマーラー5番のアダージェットかのように、左手でヴィブラートをかける仕草をしながら慈しみ深く、愛おしげに振っていく。第1主題には「自由の渇望」とでも呼びたくなるような情感が宿り、痛切な表情がにじみ出る。一方で第2主題は低弦にゆっくりと導かれ、中音域の懐深さを響かせるのだ。これら全てが澄み切った合奏で表現された。
名残惜しげに第3楽章を振り終えたインバルの顔が苦渋に歪み、指揮棒が一閃すると第4楽章の開始である。冒頭の低弦レチタティーヴォは彼が入念に作り上げたと思われるが、濃厚だがしなやかな語り口で進む。コントラバスには首席奏者が御二人。納得の重厚さである。歓喜主題は抑え切れぬように全体へ広がっていき、やがて意気揚々と全合奏へ。やがて入ってくる合唱への指示は最小限だったが、二期会は流石プロである。それほど親切とはいえないぶっきら棒な指示をも汲んで音楽に仕上げる。"Vor Gott!"で音量を小さくせず、むしろクレッシェンドしてオーケストラの音量はそのまま、というのは彼くらいしか聴いたことがない。続く行進曲までの間もたっぷり取られ、どっしりとした足取りで進む。テノールの大槻さんは柔らかな美声で魅了したが、他の御三方にやや音量的に負けていた感はあった。また四重唱での着地も少し残念。ソプラノ安藤さん、アルト中島さんは安定感があり、最後にはバリトンの甲斐さんが渾身の一音を決める。終結部はインバルはいわゆる「歓喜の歌」に差し掛かる直前の弦の念押し(練習番号M)でテンポを落とし、続いて現れるホルンの信号動機を導く形で強調した。これは今回の新機軸だ。終局では高らかに天を指差し、大白熱のままオーケストラのみの猛疾走へ。ここでのインバルの指揮は3日間同一で、ブルブルと両手を揺さぶりながら上へ掲げていくのだが、それに都響が見事に追随して圧倒的なクライマックスを築く。

これまでも相思相愛ぶりを示してきた名コンビだが、今回は客席の大熱狂もあって一際感銘深い光景に。インバルはオケを起立させようとしたが、矢部さんは体をわざと後ろに反らし、茶目っ気たっぷりに断っていた。最後の答礼後には矢部さんとトップサイドの渡邊さんをインバルがハグして解散、その後鳴り止まぬ喝采を受けて独唱陣を伴って5人でのカーテンコールとなった。
都響のシェフとして辣腕を振るっていたインバルは、徹底的に自らの解釈にオーケストラを引っ張る厳しいトレーナーだった。いまや自在な呼吸を共有するようになった彼と都響は、お互いの音楽作りをより深いポイントで理解しているのではないか。演奏中や終演後、険しさに勝って柔和な表情を浮かべるようになったマエストロを見て、そのようなことを考えていた3日間の祝祭であった。

インバル/都響「第9」1日目
インバル/都響「第9」2日目

2015/12/25
東京都交響楽団 都響スペシャル「第九」
@東京文化会館

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

ソプラノ:安藤赴美子
アルト:中島郁子
テノール:大槻孝志
バリトン:甲斐栄次郎
合唱:二期会合唱団(合唱指揮:藤本淳也)
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉
指揮:エリアフ・インバル

インバル/都響「第9」2日目。このオーケストラのホームグラウンドと言うべき文化会館が、豪快かつ緻密なサウンドで満たされた。インバルの音楽は解放と凝縮のバランスが絶妙だが、このホールで聴くとその特徴が一層あらわになる。
弦5部のバランスは偏りなく設計されているが、終楽章レチタティーヴォなど前面に躍り出る箇所では存分に歌わせて強く印象付けた。どのセクションも、楽器の出し入れは大胆かつ計算されている。

初日の第1楽章では、若干インバルはセーヴ気味で大人しい指揮をしていたように思うが、この日は冒頭から気合十分、唸り声を上げてオケを煽り導いていく。オーケストラでは2ndHrに若干の不安定さは感じたが、総じて初日より大胆な表情付けで彼の気合に応える。残響成分の少ない文化会館では、第2楽章スケルツォのティンパニも痛烈に轟き、楽曲が本来有するミニマルな前衛性が強調される結果に。楽章最後はややリタルダンドして終結を宣言する。

牧歌的叙情とは一線を画す第3楽章にも、改めて聴き惚れた。旋律線をなだらかに歌う箇所でも、持続するリズム音型への意識が常に保たれている。悠久の第2主題を導く低弦のD-A音型をはっきり強調するなど、総じて厳格に構築された演奏だ。終楽章でも同様の拘りは健在で、歓喜主題の対旋律のファゴットを伸びやかに歌わせことは勿論、ヴァイオリン群の裏で奏でているチェロのA-Cに僅かなポルタメントを施す(この工夫は2013年にもあったが、今回はより自然な形で取り入れられた)など、紛れも無いインバル印のベートーヴェンが繰り広げられた。声楽陣は変わらず壮烈、"Alle menschen"で大きく広げるなどインバルの指揮にも変化があった。

彼は今回の「第9」演奏に際して、ベーレンライター新版や自筆譜の校訂報告書などの様々な資料を読み込み、演奏の度にトライ&エラーを繰り返しているという。コンマスの矢部氏もTwitterで触れていたが、巨匠と呼ばれる年齢でも決してルーティンに陥らないインバルには恐れ入るばかりである。

インバル/都響「第9」1日目
インバル/都響「第9」3日目(最終日)  

2015/12/23
東京都交響楽団 都響スペシャル「第九」
@東京芸術劇場コンサートホール

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

ソプラノ:安藤赴美子
アルト:中島郁子
テノール:大槻孝志
バリトン:甲斐栄次郎
合唱:二期会合唱団(合唱指揮:藤本淳也)
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉
指揮:エリアフ・インバル

今年の都響「第9」は首席客演指揮者のヤクブ・フルシャが指揮をとる予定だったが、彼のウィーン国立歌劇場デビューに伴い指揮者が変更となった。A定期はミヒャエル・ザンデルリングが担ったが、こちらは桂冠指揮者のエリアフ・インバルが登場。2007年、13年に続く3回目の都響「第9」登場となった。

インバルは前回と同じく、弦楽器は16型で木管は倍という大きめのオーケストラ編成をとり、楽譜はブライトコプフ社の旧版をベースとした。奇しくもこの前に聴いたパーヴォ・ヤルヴィ/N響もオーケストラ編成は全く同じだったので、興味深い聴き比べとなった。

冒頭から明晰に刻まれる2ndVn、それに続く1stVnも鋭利に入ってくる。そして全体が高まり第1主題が力感を伴って登場するが、インバルは十分にタメを作り激烈にトゥッティを導いた。大管弦楽の鳴りはすこぶる壮大で、分厚い響きが持続する。かといって鈍重にならず、各声部の明晰さは厳しく保たれているのがインバル流のサウンドだ。一聴すると王道を往く演奏に聴こえるのだが、内声の特異な抉り出しや鋭角的なリズムの強調、時折もたらされるペザンテなどがこの演奏を個性付けている。
特に特徴的なのは第1楽章結尾のホルン絶叫に率いられるトゥッティで、これは明らかにベートーヴェン以後の音楽—とくにブルックナーやマーラーにおけるカタストロフ―を予見したものだ。
 
スケルツォが終わるとインバルは一旦退出、その間に声楽陣とパーカッションが入場し、再開となる。第3楽章もこの指揮者特有の細を穿った演奏で、感傷に浸るというよりは彼のプレゼンテイション術に唸るといった趣。この楽章については、より表現が洗練された後日で項を割きたい。
終楽章では100名足らず・精鋭揃いの二期会合唱団がオケと拮抗し、優秀さを示した。甲斐さんのレチタティーヴォは世界水準の威厳で、最後の四重唱でも卓越した朗唱だった。他の御三方も好バランス。インバルから声楽へ送られる指示は比較的淡泊だったが、時折紅潮した顔で大きく振り、終結の猛烈なプレスティッシモではブルブルと両手を震わせて巨大なクレシェンドを繰り出した。

初日ゆえの齟齬も殆ど感じず、インバルと都響の関係がより一段階成熟したように感じられた「第9」であった。今回は3回の本番全てを聴いたので、残り2日は演奏の細かな変化について記したいと思う。

インバル/都響「第9」2日目
インバル/都響「第9」3日目(最終日) 

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